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花と蕾のながめせしまに

<ご注意>
・近親相レズ描写があります。
・前立腺をソフトに扱っています。


 話は唐突ながら、イード砂漠でラケシスが発見、保護されたところから始まる。
 すでに歴史の中に埋もれつつあった「バーハラの悲劇」の生きた証人として、また王女の徳と天性の美貌が、再びこの世に現れたのは、アグストリアの民にとって何よりの賦活剤となった。
 アグスティ城のバルコニーで、アレスと一緒に民衆の前に立ったラケシスは、過ぎた日に「アグストリアの至宝」とたたえられた美貌をそのままにして、獅子王の時代が、再び今度はアグストリア全体にとどろくことは、誰の目にも明らかと思われた。
 そのお祭り騒ぎも落ち着いたころ、彼女の城としてあてがわれたノディオンに、ナンナの姿があった。ナンナは、聖戦の後、生まれ育ったレンスターには戻らず、兄デルムッドに伴って、アグストリアにきていたのだ。
「私」
と、くつろぎ姿で、指にエナメルを塗らせるラケシスに、ナンナは不思議そうな顔をして言う。
「お母様がご無事でいらっしゃったのが、まだ不思議なのです。
 どんな幸運やご加護が、お母様を守ってくださったのか」
「そう?」
ラケシスはそれがさして重要でもなさそうな受け答えをした。それまでノディオンにあったのは、おそらくは擾乱の前に描かれたラケシスの肖像だった。十代半ばと思わせるその顔と今と、目の前の母は衰えるところか、ますますに艶めいて、二人が相対する場面は姉妹といっても差し支えなさそうだ。
「私も、不思議なことがあるのよ」
ラケシスが、塗らせ終わったつめを手を振って乾かしながら言う。
「あなたがなぜ、ここで暮らしているのか。
 リーフ様はどうしたの?」
それにナンナはただうつむくだけだった。
「あんなに仲が良かったのに、私はてっきり、あの方が、あなたを立派に王妃としてトラキアに迎えてくださっているとばかり思っていたわ」
ナンナはまだうつむいている。
「私別に、怒っているわけじゃないのよ。
 どうして?」
「リーフ様には、私よりふさわしい方がいらっしゃったので…」
「そう」
ラケシスは向き直って、奥歯にモノが挟まったような娘の顔を見た。
「かわいらしく、賢く、素直に育ててくれたのはきっとあの人の努力なのね。
 でも、嘘がつけないところを似せなくてもいいのに」
「あ…」
ナンナが目じりを染めた。ラケシスがうふふ、と笑った。
「いいのよ。その話はまた後で聞くわ。
 今は、私がどうしてここにいるのか、話をしないといけないのよね」

 イザークに入るには、どうしても砂漠を通る必要があった。イザークと、トラキア半島北部を隔てるように、大きく入り込んだ海を、渡る方法もないではなかったが、身分素性を一切隠しての旅に、そんな余裕は許されない。世情の安定していないのをいいことに、海には海賊が跋扈しているとも聞いた、それなら、地に足つけた移動の方が確実だったともいえる。
 しかし、その出発のすぐ先に、もう危険は迫っていたのである。

 暗黒教団は、バーハラの悲劇でシグルドにくみした人物を捕らえては、何にかの術をかけ、封印していると、砂漠に入る前に聞いた。その危険は、ラケシスについても例外ではなく、気がつかれないようにと身をやつして突破を試みた彼女は、難なくイード神殿にたむろしていた暗黒教徒に絡め取られ、ストーンの魔法にかけられてしまった。
 その一部でも破壊されなかったのはせめてもの幸いというもの、だからこそ、健やかな体を取り戻した今、こうしていられるわけだが。
「若かったのね、私も。砂漠がそんなことになっているとは知らなくて、ただデルムッドのところに急ぎたくて、かえって遠回りをしたわ」
ラケシスは自らの失態をそうまとめて
「それで、誰かが助けに来てくれるなんてことも、思いもしなかった」
その「誰か」を、ナンナも良く知っている。
 砂漠で姿を消し、しかし生きているらしい。ほんの少しを手がかりに砂漠に飛び込んで、三年もかけて、母をこの場所に、再び返してくれた人。
「あなたは、それでどうするの?」
ラケシスは、深く思索をめぐらしているらしき娘の顔を覗き込むようにして尋ねる。
「いえ、別に」
「…うそも下手なこと」
砂漠にはほとんど訪れない雨が、ノディオンでは、ただ粛々とあふれる緑をぬらす。

 ラケシスを探し出したその人は、城にある離れでもてなされていると言う。ナンナはやまない雨の向こうに、その離れをみている。と、そこから走り出る人影があり、やがて、
「ナンナ?」
と声がした。ナンナはその声に、はっと立ち上がり、それからドレスのすそをぱたぱたぱと直して、座りなおす。
「い、いますわ」
と言うと、
「入ってもいいかな」
と声が返ってくる。
「どうぞ」
入ってきた人物を、ナンナはやっぱり立ち上がって迎え、脇の椅子を進めた。
「いやそれより先に、何か拭くものを」
と言う彼のすがたは、やはり雨の中を走ってきた風情だ。
「傘を差さずにいらしたのですかフィン様」
というと、
「走れば何とかなるかと思ったが、降りが思ったより強くて」
部屋付きのメイドたちに、ぬれた上着を渡して、フィンは軽い苦笑いをした。
「私の部屋なら、断らなくても、普通に入ってよろしいのに」
とナンナが言うと、
「まさか、もうそうはできないだろう」
頭をあらかた拭き終えて、フィンが答えた。
「すっかり成人した女性の部屋に、伺わずに入るのは礼がない」
「でも私は…娘なんですもの」
ラケシスの話がよみがえってくるのを、何度も何度も振り払いながら、ナンナはそう切り替えした。
「娘か」
フィンは、なんとなくさびしそうな顔をした。そして、服が乾くのも待たぬ風情で
「わかった、では行こう」
と立ち上がった。
「どちらに?」
の声は、もう、扉を出て行こうとするフィンには届かなかった。

 フィンは、長いことラケシスと話し込んでいたと言う。ナンナはその中身を知りたかったが、自分から中身を聞くのははばかられて、夜になるのを待って、
「何を、お話されていたのですか?」
と、ラケシスの部屋を訪ねる。
「何だと思う?」
長いすでうっとりと雨の音を聞くように、ラケシスが聞き返す。それからナンナの顔を見て
「秘密」
ふふ、と笑った。
「あの人が、あなたには秘密にしてとお願いしたから、今私から言うことはできないわ」
「そう、ですか」
答えながら、ナンナは、母の肢体を見る。自分が生まれて数歳のころに旅立ち、暗黒魔法の凶事に遭ったのは、ざっと十年ぐらいは前になるだろうか、しかし、その暗黒魔法は、再び見つけられるまでの時間、母を美しいままに保ってくれた。
 その母が、ふう、とため息をついた。その視線は、明らかに、この部屋からも見える離れに向けられている。
「お話は、本当に、それだけだったのですか」
そう尋ねると、意外とラケシスは「いいえ」と答え、立ち上がってナンナを指で招いた。

 音もなく現れたメイドたちに、全身の服を脱がされて、
「お母様、これは…」
ナンナはおびえあがった声を上げる。同じようにメイドに手伝われ、するりと一糸まとわぬ姿になった母は、質問には何も答えようとせずに
「ナンナ、あなたはもう、どなたかに体を許したことはあって?」
と、逆に質問してくる。ナンナはにわかに頬を染めて、
「そんなこと、ありません」
と答えた。ラケシスはまたふふ、と笑って、
「あなたほどにかわいい人なら、もう誰かいとおしんでいる人がいると思った」
「そういうお話は、ずっと、お断りしています」
「綺麗な体だこと」
その言葉は、ごくささやかに嫉妬がこめられている。
「教えてあげましょうか? 私とあの人が、ここでどんな、長い話をしていたかを」

ラケシスは、エナメルの爪をナンナのあごにかけ、装いを知らないその娘の唇に、自分の唇を絡ませる。
「ん」
ナンナの唇は、固く抵抗している。離すと、
「いけませんお母様、私達は親子で、しかも女同士じゃありませんか」
「いざ殿方に望まれて、何も受け答えのできない娘にはしたくないもの、これは母心よ」
また何か返そうと開いたナンナの唇に、ラケシスはもう一度接触を試みる。歯茎を舌先で撫でる。ナンナが、ふう、と、鼻でため息をついた。
 そのまま、重なるように横になる。顔もさりながら、体も鏡で写したようだが、乳房はまだ固さが残り、その先の色も淡い。その先をひねられて、

「ん」
ナンナは小さくうめいた。ラケシスはやっと唇を離し、
「もうわかったでしょう? こういうことを、していたのよ」
そう囁いた。囁きつつ、頤や胸元に唇を落とし、瑞々しい乳房をもてあそぶ。
「あ」
一度声を上げかけたナンナは、すぐに声を押し殺す。
「んくぅ…」
「ごまかしても無駄よナンナ、一人遊びはすきなのね?」
ラケシスが、娘の乳房の先を、舌先でつつく。
「ふぁ、あ、あぁ」
「そうでなければ、こんなところが気持ちいいなんて、知らないはずですもの」
ねぇ、ナンナ。誘い出すように声をかけたが、娘は何も答えず、おそらくは恥ずかしさからか、顔を覆ってしまっている。
「何も話さないのもつまらないから、あの人の話でも、しましょうか」
ラケシスは、言いながら、ナンナの膝を開く。指で、その真ん中でしっとりと息づく裂け目を一撫ですると、ナンナの体がぴく、とはじけた。
「砂漠からここに来るまでに、こんな関係になるまで、時間はかからなかったのよ」

生え整った茂みをわけ、熱く充血し始めた敏感な、文字通りのつぼみを露出させ、舌先ではじく。
「あああっ」
ナンナがすっかりなまめいた声を上げる。
「あの人は、決して私を名前で呼ばないで、昔どおりに呼んでくれたの」
膨らんだつぼみをつまみあげられて、か細く喘ぐナンナの耳に、ラケシスは吹くように
「あの人に抱かれて、何度も聞かれたわ。『王女、これは夢ですか?』って」
そういい、しかし、言葉とは裏腹の力で、その真ん中に指が、容赦なく打ち込まれる。
「ひっ」
ナンナが身をよじり、枕を握り締めた。
「あら、まだ一本よ。痛いの? それとも、気持ちいいの?」
ラケシスが笑む。指を入れられたまま、まるで自分の物のように、しろいすべらかな肌に唇を這わせ、乳首を軽くかむ。
「あぁあ」
「あら、ぴくってしたわ。お嫁入りもまだなのに、いけない子だこと」
「違います、お母様、私、そんなところ…」
「あら、そんなところなんて失礼を言うものではないわ。大切にしてきたのだもの、自分をほめてあげないと」
抜き取られた指に、とろりと潤いが絡んでいる。ふさがれていたその奥から、新しい潤いがぽつりと落ちる。
「楽になる?」
ラケシスにそう尋ねられても、ナンナは何のことだかわからない、という声を上げた。
「え?」
「聞かせて上げなさいな、あの離れの人に。かわいらしい声で、あなたがもう『娘』でないと言うことを」
ラケシスは、指をナンナの敏感な場所に望ませた。ヒダの中に、しずかに指が埋め込まれ、ちゅく、ちゅく、と一人遊びで覚えた快楽のツボを一気にかき混ぜられる。
「はあ、あ、あああ…」
のけぞって、ふるふると揺れる乳房の先を、ついばみながら、
「まあ、腰の使い方は練習してるの? いけない子」
うずめた指をさらに動かす。ナンナの目はもう焦点もなく、母の指をむさぼるように下腹を持ち上げ、目じりから涙を落とす。

「ほら、もっと大きな声出さないと、聞こえないわよ」
「できま、せん、あ、ああ…んぁ」
「もしかしたら、聞いているかもしれなくてよ」
「え」
ナンナの声は急に戸惑うが、すぐ、快楽に引き込まれる。
「ん、んん…んぁ、ぁ」
「あら、それとももうだめ? いいのよ、だめなら。かわいらしく、ね?」
ラケシスの手のあしらいが、急に、撫でるように柔らかくなる。それでも、十分に高まりきったナンナはあおられた。
「あん、あ…ぁぁぁぁぁ…」
ぶるぶるっ、と奥底から震えが来て、ナンナは、おのが体を抱きしめながらあられなく上り詰めた。

 両の手足を寝台に投げ出して、事後の陶酔に起き上がることさえできないナンナのあられないすがたを、ラケシスは夜の衣装を調えながら莞爾としてみた。そして
「出ていらっしゃい、覗き屋さん」
と、扉に向かって声をかけた。少し開きかけていたらしき扉は、かぼそい軋みをあげて開き、その向こう側から、年甲斐もなく紅潮したフィンが出てくる。ナンナがそれに、泡を食ったように起き上がり、着ていたものをかき寄せ、体を隠した。
「結構なご趣味ね」
と、皮肉でもなく言うラケシスに、
「申し訳ありません」
フィンは背中が見えるほど腰を折った。
「お部屋に明かりがあったので、もし眠れずおられるのなら、…お話し相手でも、と」
『お話し相手』の意味を、ラケシスはもうわかったようで、
「ごめんなさいね、ナンナと取り込み中で」
と返した。
「そろそろ帰るんですものね。思い出は多いほうがいいわ」
そうとも言った。ナンナが二人の顔をかわるがわる見やり、
「フィン様…帰ってしまわれるのですか」
と言った。

「お前には明日、改めて言おうかと思っていた。数日後には帰る」
寝台の空いているところに座り、フィンはまだ上気の残るナンナの頬に手を当てた。
「お前も一緒だ」
「え」
ナンナが頓狂な声を上げた。
「それじゃ、お母様はどうなりますの、トラキアをめぐっていたころは、世間を欺くためでもご夫婦の誓いをなさっていたのに」
「だから、条件付きなのよ、ね」
戸惑いがちのナンナの声に、ラケシスはいともあっさりと言う。
「一年の間、三ヶ月ぐらいはここにいるようにしてくれればいいわ。ナンナ、あなたの静養目的とでも言えば、理由は十分でしょう?
 悔しいけれども、一緒にいた時間ではあなたに負けるもの」
両手の自由の聞かないことをいいことに、フィンはナンナを簡単に引き寄せて、五体ずくめに抱きしめる。
「王女はお美しい。私の心は、ノディオンで最初にお見受けしたときから、この方の足元に額ずいている。
 しかし、お前が生まれた日から、私とお前はずっと一緒だった。
 娘と呼ばせ、王女の形見と思って、ずっと手放しはしなかった。
 そのお前が、『お父様』と呼ぶのが実に苦しそうだった日のことを、私は今でもおぼえているよ。ターラに向かう途中、別働隊から合流したときのお前の顔は…」
「はいはいはいはい、そこでおしまい」
ラケシスがその話の間に、文字通り、顔ごと割って入る。
「それよりも、この状況をおわかり??」
二人が一度顔を見合わせて、「は?」と言うと、ラケシスは、それは妖艶な微笑みを浮かべて、ふたりの肩を同時にぽん、と叩いた。

 ラケシスは寝台の上で、なまめかしく脚を組んで座りながら、
「どうなの? この子を優しく水揚げするのは、ここで? それともあっちで?」
とフィンに問う。突然の質問にフィンはしばらく呻吟し、
「そ、それは… レンスターに戻り、周知をし」
「もったいない」
その返答にラケシスは肩をすくめた。
「そこに、ちょっと布を引けば後は食べるだけのナンナがいるのに、そうしち面倒くさくお膳立てする必要があるの?
 そういうのをね、『据え膳食わぬは男の恥』っていうのよ」
「で、ですが、ここでは」
「あら、私が見てたらダメ? 混ぜてもらうのはもっとダメ?」
そう上目遣いをするラケシスに、フィンは
「ダメですよ」
と渋い顔をして、立ち上がろうとした。しかし、ナンナがその手を離さない。体を隠していた服がはらりと落ちた。
「私なら、構いません。 お母様が見ていてくださるなら、安心できそうで」
「ほら」
いわんこっちゃない、という顔をラケシスがした。フィンはがっくりと頭を落とす。


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