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おにぃちゃん、おしえて?

 それは、二人でくらしはじめた初めての夜だった。
 とんとん、とノックがされる。
「お兄ちゃん、もうねちゃった?」
と、ドアの向こうから声が聞こえる。
「いや、起きてるよ」
と答えると、
「はいっていい?」
と聞いてくる。起き上がりながら、
「遠慮しないで入ってこいよ」
と言うと、細く空いたドアの向こうから、小さい影が滑り出してきた。
「…よかった」
ろうそくの明かりに、ほほえみがてらされる。小柄なエルフでも、小さいほうに見えるメイヴィは、大ぶりのシャツを一枚だけ着て、枕を抱えている。その姿は、それはあどけないのだが、シャツからのびる脚は、そろそろ彼女が子供と呼ぶには中途半端な年頃である事を、如実に物語っていた。
「あのね、お兄ちゃん」
「なに?」
「…いっしょに、寝て、いい?」
枕をきゅっと抱き締めて、メイヴィは細い声で言う。

 ことのはじまりは数カ月程前、所用があって、メイヴィの親の元に行ったことからはじまる。用もすんで歓談しばし、用意されたアルコールも手伝って、すっかりアートを気に入ったらしき親父殿はとうとうこうのたまうた。
「よし、あんたなら娘を任せられそうだ!」
ばん、と肩をたたかれて、
「…はぁ?」
と目が点になる。というのも、その時メイヴィはほんの数歳…いや、エルフは成長が遅いのだ。人間に直せば子供と大人のちょうどあわいにさしかかかる年頃のはず…に見えた。
 そのことをおどおどと言い出すと、親父どのは
「心配はいらん!」
といい、妙齢には見えるが実年齢は3桁になったのはおぼえていると自称する奥方に、娘を呼びにやらせる。
「なに、めでたい事は、思いだったが吉日と言うもの、面倒な事は一切心配はいらない」
あらわれた娘は、客がしばしば遊びに来る見知った人間だと分かると、
「お兄ちゃん♪」
と人なつこくよってくる。親父殿は、
「なになに、一切厄介なことはこちらで用意させていただく。いや、こうして見れば、一幅の絵としてもよいほどとは思わないか」
と、至極ご満悦だ。奥方もそれに「はい」とあいづちをうって、娘に、
「メイヴィ、よかったわね、大好きなお兄ちゃんのお嫁さんよ」
というのであった。

 断れなかったのだ。この夫婦には、娘を嫁に出そうというときの葛藤などには、まったく無縁だった。
 あまっさえ、話がまとまるや、奥方が嬉々として娘に施したのは、「急速成長」の儀式魔法。メイヴィが今の姿になったのは、二人でくらしはじめるほんの数日前のこと。メイヴィは、あのあどけない顔をそのまま引き伸ばしたような、可憐な姿になっていた。それにすっかり入れ揚げてしまったことは…アートも否定しない。
 とにかく、アートの目の前で添い寝をねだるメイヴィは、身体こそ多少は大きくなったが、中身は、ほんの数歳なのだった。まもなく夫になるアートを「お兄ちゃん」と呼びつづけてい
るのが、何よりの証拠だ。人に聞かれたら、なんとも奇妙な夫婦…いや、ゆがんだ兄妹と思われるだろうなと、アートはよけいなことを考えていた。…メイヴィの唇からつむがれる自分の名前も…悪くはないはずなのだが。
「いい?」
念を押すように、メイヴィがたずねる。アートは引き戻されて、どうこたえていいものか、固まったままだった。メイヴィがうつむく。
「…あのね、メイヴィ、…一人で寝るの、初めてなの。…さみしくて…」
「…なんだ、そういうことか」
アートは、こわばった肩の力をふう、と抜いた。ならば、なんということはない。しかるべく、周りに夫婦と認められるまでは離れて眠ろうと思っていたが、相手にそのつもりがないなら、こっち一人が余計な事を考えないようにすればいい話だからだ。
「じゃあ、一緒に寝よう。
 おいで」
ベッドを半分開けて、手招きをすると、メイヴィはうなずいて、いそいそとベッドのわきに歩み寄ってきた。持ってきた枕をぽんと起き、それを頭にして、いかにも安心したように丸まる。
「えへ」
長い耳も、実に器用におさめて眠るものだ。アートは感心しつつ、もう一度、眠ろうとした。

 が。
「…お兄ちゃん」
メイヴィが、小さい声で言う。
「お話とか、…してくれないの?」
そのことばに、アートは大いに仰け反った。
「な」
ぱくぱくと震える口で、やっと、
「ど、どういうことなんだ、それ」
と聞くと、
「う〜ん、よくわかんない。おかぁちゃまがね、お兄ちゃんが、メイヴィになにかしたら、嫌な事じゃなかったら言う事ききなさいって言ったから…待ってたの」
と、いとも無邪気なことを言う。アートは枕につっぷして、メイヴィの両親を恨んだ。よりによって、彼等は、「ほとんど何も教えないで」娘をこの男に預けてきたのか。
「ば、ばかだね、なにも…」
言いかけてから、ふと、思い立つ。
「こういう状況で、俺はお前に何をすると思う?」
「…おとうちゃまやおかぁちゃまは、メイヴィが寝ちゃうまで、一杯お話してくれたわ。
 おかぁちゃまは、お兄ちゃんがしてくれるおはなしは、メイヴィが聞いた事ないお話だっていってたから、たのしみにしてるの」
「たのしみ、ねぇ」
仰向けになって、アートは天井を仰いだ。そして、顔を向ければ、アートの「お話」を期待して目を輝かせるメイヴィの、実はなんとも可憐な事か。エルフはその形質の秀麗さに心惑わされるものも多いと聞くが、…何となく、納得されてしまう。
 それに、だ。今のメイヴィは真っ白の極上の絹だ、今まで逢ってきたどんな女性とも違う…思いのままに、染めあげられる。アートの本能の部分が、ぐきん、と、おおきく疼いた。
「じやあ、話をしてあげよう」
「うん」
期待に満ちたメイヴィの眼差し。しかし、これからの寝物語の主役は…メイヴィだ。アートは、花びらのような唇に、自分の唇を押し当てた。
「ん」
でも、無理はしない。両の唇を摺り合わせるだけだ。離すと、メイヴィは、
「息ができなくなるかと思った」
と言う。
「そう言う時は鼻ですればいいの」
「…そうなんだ」
「そうなの」
言ってからふと、気になる事が出来た。…身綺麗にするのは、この際礼儀というものだ。
「なあ、…俺、湯浴びてくるわ。 いいかな、俺の言う事をやって、待ってろよ」
「はい」
メイヴィは、素直にうなずいたが、耳打ちされた事に、真っ赤になって聞き返した。
「そうしていれば、いいの?」
「そう。でないと、お話は、お預けだ」

 戻ってくると、扉を閉めるか閉めないかのうちに、
「お兄ちゃん、これでいいの?」
と声がする。振り向くと、あどけない妻は、ふとんの中から、顔だけを出していた。ベッドのわきには、メイヴィのもののはすだ、シャツが一枚なげだされている。それでも、言う。
「それじゃ、ほんとうに言う通りにしてくれたのか、分からないよ」
「ちゃんとしたもの、ほら」
メイヴィは、ふとんの中から両腕をするりとのばした。肩までがあらわになって、そこまでは、一糸もメイヴィを隠していない。アートは改めて
「そのようだな。…おりこうさんだ」
ベッドの上に乗りながら、頭を撫でる。メイヴィは、目尻を赤くそめながら、
「ねえねえ、お話は?」
と催促に入った。
「お話…おはなし、ねぇ」
メイヴィの瞳はわくわくとしている。しかし見ているほどに、それ以上、メイヴィを騙していくのも可哀想な気がした。どんなに取り繕っても、いずれ本当のことはわかるときがくる。そのときになって慌てさせて、そのままその営みを嫌がるようになってしまったら、これから先がかわいそうでもあるし…
「お話じゃないよ」
「にゅ?」
「まあ、お話じゃなければ、なんなのか… そうだな、レッスン、だ」
「レッスン?」
「そう。 …さ、続きだ」
もう一度、唇をあわせる。今度はメイヴィも、上手に息をする。アートの舌先が、メイヴィの唇をたたく。
「ふむ?」
「舌を少し出してごらん」
唇が弛んで、小さい舌先がのぞいてくると、アートはそれを引き出すように吸う。
「ん!」
顔を背けようとした。でも、腕を押さえられて、顔は、唇で押さえ付けられて動けない。
「…ふうっ」
メイヴィにしてみればやっと、という時間が立って、唇が離れる。
「どうかな? これからほとんど毎晩、こういう事をするんだ」
「お兄ちゃん…」
メイヴィの瞳がとろとろと潤む。
「なに?」
「魔法、使った? メイヴィ、動けなくなっちゃった…」
「俺はエルフじゃないから、魔法は使えないよ」
「じゃあ、なぁに?」
「…感じた、んだろうな」
適当な言葉も見つからず、そう答えると。メイヴィはきょとん、とした。
「感じた?」
「すぐにゃ分からないよ。大体、自分で何とかした事もないだろうに」
「にゅ…」
「もっとも、何とかしていたら…俺、お前の見方変わっちゃうけどね」
何気ない言葉のつもりだったが、メイヴィはその言葉尻を敏感にとらえる。
「お兄ちゃん…メイヴィのこと、嫌い?」
潤んだ目でいかにも恨めしそうに言って、ふとんに潜り込もうとする。それをアートは慌てて、
「違う違う、もののたとえだ!」
と、潜った穴に言う。
「ふにゅ…」
「…だから、俺が全部教えてやるんじゃないか」
「…」
目がちらりとアートを見る。
「な? …まあ、俺も、胸をはって教えられる程、何でも知っているわけではないけどよ」
いうことを考えて、考えて、アートは「あ〜っ」と髪をかいた。
「俺さぁ、今…無性にお前が好きになってきた。前よりな」
「…好き?」
メイヴィの顔がすっとアートの方を向く。
「ああ」
「…メイヴィもね、お兄ちゃん大好き…
 ずっと、仲良ししようね」
「ああ」
メイヴィはすっと目を閉じた。アートは、その唇に、あらためて口付けた。

 ふとんの中にもぐりこむと、メイヴィの身体は熱かった。
「ちゃんと、な。教えてやるから」
「うん」
横になった彼女の胸の膨らみはまだ低い。触れてみて、ほんのりと柔らかい部分がそれと
分かる程度だ。しかし、肌のきめは細やかで、指先にしっとりと絡むようだ。すぐにでも、その場所を堪能したかったが、あえて自分を律するように、アートは首筋だの耳たぶだのを唇ではむ。しかしメイヴィは風情もなく、
「お兄ちゃん、くすぐったい」
きゃらきゃらと笑い声さえたてる。
「おいおい、真面目になれよ、笑ってる場合か」
「だって、くすぐったいのだもの」
「…全く」
いいはしたが、アートはふと思い当たった。メイヴィには、素地がない。目覚めていない身体なのだ。だとすると、余計な手練手管の必要はなく…もっと直接的に責めてもいいのではなかろうか、と。
「じゃあ、こうだ」
思いきったアートの手は、メイヴィの乳首に伸びた。わずかな膨らみを摘まみ上げられて、笑っていたメイヴィは途端
「きゃあ」
と声をあげた。驚き、と言った方が正確だろう、それでも彼女の身じろぎはそれでぱたりととまった。一度強く摘まみ上げた後は、親指と人さし指で、潰さない程度の力加減でくりくりとひねる。
「ふゃ…」
メイヴィの顔に、今までなかったような表情が浮かぶ。指を離しても、弄ばれた側は、ぷっくりと盛り上がったままだ。そのさらに先を指の腹で摩る。
「どうした?さっきの元気は」
と、揶揄っぽく聞くと、メイヴィは
「胸がへん…」
と小さい返事が帰ってくる。
「お兄ちゃんが触っている方が、ちくちくするの」
「なるほど、じゃあ、今度は両方だ」
二つの乳首を二つの手で、そろそろとまわすように撫でる。手のひらの中で、それは二つともはっきりと硬くなり、心無しか、乳房全体がふっくらとボリュームを増したようにも見える。メイヴィの目が、とろんとした。
「…ふぅ……ふぅ…」
呼吸が深くなる。顔から胸元までほんのりと赤くさせるその有り様は…実に煽る風情だ。
「どうだ?」
聞いてみる。アートの目からは、それが感じている表情には見えるのだが。
「胸が…胸がじんじんするの…おさまらないの…」
「多少は聞いてるみたいだな。だが、こんなのは序の口だぞ」
「お兄ちゃん、メイヴィ、感じてるの?」
「かもな」
そのまま、彼女の身体にかぶさる。高ぶって膨らんだ乳房は、それでもぱくりとひとくちにおさまった。
「ひゃ」
メイヴィの戸惑った声。
「やだぁ、お兄ちゃんてば…メイヴィ、おっぱいでないよぉ」
「そうじゃない。こういう方法もあるの」
言い返して、もう一度含んで、舌先で固いままの乳首を転がす。
「ふゃあ」
メイヴィの声が急に潤んでくる。空いている方はそのまま指で相手しているわけだが、その方も、これが初めてかと思う程に固く張り詰めていた。
「ふゃ…お兄ちゃん…ふゃぁ」
指と唇を交互につかう。乳首がだ液につるりと濡れる。
「お兄ちゃん…からだが熱いよぅ」
と、涙目の訴えになる。
「熱いか?」
「熱いの…それでね、なんか、声出ちゃうの…恥ずかしい…」
アートの問いに真っ赤になりながら答えるメイヴィの顔を、彼はにやりとさえしつつ見て、
「嫌いか?こういうの」
と聞くが、案の定と言うべきか、彼女は
「ううん…嫌いじゃない。えと…うーんと…」
「気持ちいい、だろ?」
「気持ちいい、なの? ぽおっとしちゃって…よくわかんない」
眉を潜めるメイヴィに、アートかはさらにたたみかける。
「もっとするか?」
一瞬の間をおいて、メイヴィは答えた。
「…うん、もっとして…」

上半身が見えるまで、ふとんをのける。さすがに全部のぞいては、メイヴィの心象に悪かろう。すべすべの腹をくすぐらない程度の強さでなでる。メイヴィはマッサージでもされているような、いかにも心地よさそうな声で
「うーん…」
と鼻をならした。
「さて、次だ」
アートが改まって、新しい愛撫をくわえてゆく。自分の肩に腕を絡めさせて、安心を与えながら、彼の手はまだふとんで隠された部分にまで伸びていく。まだ下着に覆われているその部分も、ふっくりと熱かった。不安そうな顔のメイヴィに、
「これからだよ、本番は」
笑いながら指はその下着の下を滑ってゆく。指先に触れる体毛の感触は柔らかく、まだ量も少なそうに感じられた。
「お兄ちゃん、そこ…」
「肝心の場所だな」
あちこちを撫でつつ、アートは、うちももの間にまで指を差し伸べ、まだびったりと合わさったヒダのほんの表面をする、となでた。
「お?」
探るような顔が、ふとにやりとする。
「なに?どうしたの?」
とメイヴィに聞かれて、アートはゆっくりと、指を引き出した。指は、うっすらと、何かをまとったようにろうそくに光る。
「やん、…さっきからぺとぺとしてて、変だなって思ってたら…」
顔を覆いかけた彼女にアートが慌てて説明する。
「違う違う、出る場所が違う。これで出てるってことは、ちゃんと感じている証拠なんだって」
「そうなの?」
「そうなの。これがいざって言う時出てないと、痛いんだぞ」
痛い、と聞いて、彼女はさらに眉をひそめた。それは明らかに、拒否の表情だ。
「お兄ちゃん、痛いこと、するの?」
「はじめのうちだけな。慣れれば…そりゃ…」
「痛いのはイヤよぉ…」
その小声の一言が、ぐさっとアートの良心を抉った。今日はじめて一から学ぼうとして、や
っと感じる事を覚えたことだけでほとんど飽和状態のメイヴィに、果たして破瓜の痛みはたえられるのだろうか。もっともアートは話に聞くより他に、その痛みを想像する事しかできないのだが。肝心要の行為はなくても、一度滾ったものを解くすべはないわけではなく…
「わかったよ、今日は痛い事はしない。初めてだからなぁ」
そうったところで、やっとメイヴィが笑みを取り戻した。
「…よかった」


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