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 「ね…ね…触って」
目だけでそれがかなえられないとなると、唇がかすかに動く。
「触ってますよ」
「違うの、そこじゃなくて…」
ラケシスは、真っ赤な顔を胸板にこすり付けて、
「くりくりって…してほしいの…」
「かまいませんが、それをすると、あなたはすぐご満足されてしまう」
「意地悪…切ないのに…」
指を二本、下の唇にくわえて、もじりもじりと自分から動く。
「切ないのは、貴女が望まれているところではないのでしょう?」
耳元をなめるように、フィンがささやいた。
「わかんないのぉ…どこもむずむずして…」
目じりに涙をためるラケシスの訴えに、フィンはやっと指を抜く。
「んくぅっ」
震えるラケシスを、そ、と抱きしめて、
「貴女の本気、十分伝わっています」
といった。膝に力をいれて、体を開く。肌の色になじんだ体毛が、ふっくらとほころんだひだを透かして、触って欲しいとねだられたふくらみもはっきり見える。それを一度だけ、ちゅるっとはじく。
「ひぁぁん」
「私の本気を、受け入れてくださいますね」
彼女のうなじの下に、手を差し入れ、ひだの中の入り口に、その先端をあてがう。
 ラケシスはこくん、と頷いて、フィンの腕の下で、きゅ、と小さくなった。

 これまでのラケシスなら、少し眉をしかめながらそれを受け入れ、「まだ、ちょっと、つれる感じ…」と訴えたりしたものだが、今夜は違う。
 愛撫で体の力をすっかりなくしたラケシスは、フィンの侵入を少しも逆らわず受け入れて、
「ふぁ…」
と息をついた。
「いかがですか」
「痛くない…全然痛くないの…」
うっとりと言って、「嬉しい…」と、ほんのり笑む。
「あなたでいっぱい、って、こういうことなのね」
「そうですよ」
フィンの背中に脂汗が滲む。
「気持ちよさそうな顔してる」
ラケシスがくす、と笑った。手での刺激より、彼女自身の刺激はかなり緩やかなものではあったが、雰囲気しだいでは果ててしまいそうな気がしなくもない。ままよ、と腰を使う。
「あぁ、あ、すごい…」
ラケシスが、うっとりと声を上げた。
「あなたの、膨らんでるところ…出たり入ったりしてるぅ」
「っ」
そんなことを仰られると、言葉であおられてしまいます。そんなことをいいでもしたら、それこそ、自分の言葉で追い詰められそうだ。
 じゅっぷ、ぬぷ、と、粘つく音が高くなる。
「んはぅ」
ラケシスが声を上げた。
「こすれてる…何か、中でこすれてる」
つい、と、寝台につけられたラケシスの足先に、きゅう、っと力が入った。その力が、彼女自身の狭まりをいっそう狭くする。
「ぁっ」
今度はフィンが声を上げた。引き抜くときに、その狭まりが、彼女の言う膨らんだところのふちをこすり上げる。
 不意に、ぐにゅ、とラケシスが動いた。締められたのではない。足先に力をいれて、腰をゆらゆらと動かしているのだ。吸い込むように。
「!!」
入る角度がわずかに変わると、こすられるところが変わる。無意識なのか、それとも意図的なのか、頬を染め、うっとりと、その行為に浸っている彼女の表情からは伺えない。
「んぁ、は、こすれる、こすれるぅ…ふぁぁん」
臆面ない声だけが、彼女の気持ちをうかがう手がかりだ。

 「いっぱいこすって、中こすってぇ…」
そういいながら、腰を揺り、締め上げる。
 ここまできたら、潔く、負けを認めるしかなかった。
「もう、だめです」
じゅじゅじゅっ、と数回突きこんで、彼女の中に、ためていたものを放つ。
「ん、んんっ」
ラケシスが眉をしかめた。短距離を全速力で走らされたような深い呼吸が数回あって、フィンがからだを離す。とろり、と、白いものがそれに続いた。
「ごめんね…我慢させてたのね」
枕に上半身を預けて、ほんのりと染まった顔で、ラケシスが言う。
「予想以上にお上手になられていたので、油断いたしました」
フィンはそう言う。ラケシスははた、と頬を押さえて、
「上手なんて…」
と、ぽそぽそ呟く。
「お腰の使い方を心得ておられるとは、私の認識の範囲外でした」
「あ、それは…」
ラケシスの顔が真っ赤になる。
「それは、あの、ね、痛くないようになったら、そうすると喜ぶって…」
「教えられたわけですね」
こくん。フィンは額を押さえた。師匠がほぼ共通しているのだ、入れ知恵の仕入先は大体分かる。
「ほかには?」
「あのね、あなたの動きがどんなのか、口で言ったり、とか…
 すっごく恥ずかしかったけど、喜んでくれるならって…」
「王女」
やれやれ、という顔でフィンが言った。
「なにもかにも、教えられたとおりにする必要はないのです」
そっと差し入れられた湿された布で、ラケシスの体をつとぬぐう。
「あふっ」
「…作られたお声より、自然なお声の方が、私は好きです」
ぬぐいながら、その布ごしに、彼女がずっと触って欲しかったあのふくらみをそっとなでる。
「ぁ」
「とはいえ、私も少々焦らしがすぎました、申し訳ありません」
「ううん…それは…ぁっ…いいの…だって…くふっ…そのおかげで、…はぁん…痛くなかったんだもの…」
ふくらみをなでられながら、途切れ途切れに言う。いつの間にか、ろうそくが新しいものに
替えられていた。ラケシスのほころんだ体から滴る色に、もう、残滓の白はない。
「ところで」
布の始末をして、フィンが、まだ目が潤んでるラケシスを見た。
「怖くはなくなりましたか?」
その問いに、ラケシスはこくん、と頷いた。もともとがほんの小さなこだわりで、それも氷解してしまっているのだから、体での確認は、付け足しに過ぎない。

 一度は眠ろうとしたが、まんじりとできない。
 それはラケシスも同じだったらしく、急にくるりと寝返りを打つと、フィンをいたわるようになでていた。
「!」
「ほんとだわ、我慢しすぎると、すぐこんなになってしまうのね」
「だから入れ知恵を鵜呑みなされないように、と」
「そんなこといって」
ラケシスがくっと上目遣いになり、
「体拭いてくれながら、いたずらされたの、ちゃんと知ってるのよ」
という。そして、ふと潤んだ顔で
「二人とも満足できないんなら、…もう一回」
と言った。

 フィンはおもむろにラケシスの背後に回り、潤んだままの花びらと、とがった胸先をまさぐり始める。
「んっ んっ、はっ…ふぁぁ」
うっかり消し忘れたおき火は、かき立てられてまた小さく炎を上げ始める。
「枕の向こうに、手をついてください」
と後ろから言われ、ラケシスは枕を当てるようにして、ヘッドボードに手をかける。
「な、なにするの…」
「お痛みにならないようなら試せといわれていたのですよ」
ラケシスの中に指が差し入れられ、同時に敏感な膨らみがなでられる。一気にかきたてられ、
「ふぁ、ふぁぁぁぁ、あぁっ」
金色の髪が、ふるふると揺れた。そして、ずんっ、と、圧迫感が一気に入ってくる。
「ふぁ…」
涙目を開いて、ラケシスはしばらく声が出せなかった。入る場所は、もちろん間違っていない。しかし、うしろからとは…
「こういうことするなら、最初から言って…人間じゃないみたい」
「あらかじめご説明したら、きっとそのように仰ると思って」
フィンはそう、耳元で言い、膨らみと胸先をゆっくりあしらいながら、腰を使う。
「あ」
ラケシスが、ぴく、と震えた。
「入り方が…違う…」
「どう違います?」
「今まで来てないところまで、あなたが届いてる…
 あ、あ、ああっ なに、これ…」
ラケシスの腕が急に力を失い、支えられた腰から先がぺたりと寝台についた。枕を引き寄せ、抱える間にも、後ろから追い立てるような突きはとまらない。

 後ろからの眺めは、フィンも初めてだった。彼女の体毛は薄く、後ろからの眺めではほとんど見えない。その分、ほの赤く膨らんだ花びらのようなひだが見え、彼女から引き出される自分は、ろうそくの明かりに、てら、と鈍く光る。それをまた、づん、と入れる。その動きとラケシスの声が連動して、彼女を自分が操っているような、あまやかな無礼さえ感じる。しかし、こんな無礼なら、多少の罰をこうむるとしても味わいたい。
「!」
気のせいか、先が何かに当たった。これ以上は進めない。何度突き入れても、そこでとまる。
「これが、奥」
彼はそう呟いた。しかし、ラケシスには聞こえていない。その、とまるところまで突きいれられた感覚に、背筋がしびれ続けている。
「あっ、あっ…ああっ」
これが、奥を小突かれる感覚というのだろうか。かろうじて腰を支えられているが、それがなければ、うつぶせになってしまいそうだ。
 つう、と指が伸び、ふくらみに当てられた。あとは律動が、自動的に刺激してくれる。
「ひぁっ」
「ぅっ」
二箇所を責められると、自然と体に緊張が走る。
「ど、どう…?」
振り向いて、表情を確かめようとする。フィンは、顔を伏せ、突きたてることに神経を集中させていたようだ。
「大変…よい…加減です…」
そう、呟くようにいって、
「私に、確認をとられることはありません、お気持ちのままにいてください」
と、一度動きを止めて、そうささやいた。そして、また、ずんっ、と貫かれる。
「はああっ」
枕を抱えるラケシスの手が、ぎゅうっと強まった。
「ああ、奥が、変なのっ」
その声は、演じているようではなかった。
「いっぱいで、あっあっ」
パンパンになった膨らみが、絞り込むような動きに連動する。
「奥、じんじんするっ あっ、くりくりしたら、あっあっ」
「うくっ」
「あぁんっ」
短いが、高い声を上げたラケシスの、奥の奥で、二度目がはじけた。

 「ねえ」
「何でしょう」
「あんな…しかたも…あるの?」
とは、二度目の、後ろからのつながりを暗に指しているようだった。フィンはしばらく考えて、
「ええ、あります」
と、率直に答えた。
「おいやでしたら、これきりにしますが」
「ううん、いやなんじゃないの。
 なんか、馬みたいだなって、ちょっと思ったの」
ラケシスが衣装を直しながら言う。
「でも…普通にするのと、ちょっと違って…奥に届くって、ああいうことなんだって」
いいながら、ぽぽぽっと赤らむ顔が、たまらなく可愛い。
「でも、少し反則だったわ」
「反則? 私がですか?」
「そうよ。私、半分は、……くりくりされて、きもちよくなっちゃったんだから」
「男は楽にできているのですよ」
フィンは、いつかの彼女のセリフを混ぜ返すように言った。
「経験と気持ちがそのうち、小細工なしに、貴女を本当にお望みの高みに上らせてくれますよ。
 私は、それをお手伝いするだけです」
「そうかしら」
「そうですよ」
大切なことをいい忘れていました。フィンはいくつかろうそくを吹き消し、明かりを落として言った。
「人間と動物の決定的な違い」
「何?」
と、布団の中で擦り寄ってきたラケシスのひたいをつん、とつついて、
「人間は、ここで『する』のです」

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