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さらに危険な彼女

#5:「禁断の果実」に唇寄せて

 「リンゴがきたよーぉ」
解放軍の少女の輪の中で歓声が上がる。おめかしと甘いものの話は、いつでもこの輪の中では人気の話題だ。
「拠点でもないと、新鮮なもの食べられないから、今のうちに食べておかないとね」
「そうそう」
そんな声に、周りからヤジが飛ぶ。
「いざって時に動けるぐらいにしとけよ、食ってるだけだと色気もなくなるぜ」
「色気なんてなくってもいいもん」
ねー。少女たちは笑いあいながら、瑞々しいリンゴにかぶりつく。しかしナンナは、ぽん、と手の上に乗せられたリンゴを、少し戸惑うような顔で見ているだけだ。
「ナンナ、どうしたの? 食べないの?」
「食べたいけど…ナイフないと、皮むけないから」
少女たちのさざめきと、リンゴをかむ音が止まる。
「ナンナ、まるかじりしたことないの?」
「…おかしい?」
「おかしくはないけど…ナンナ、予想以上にお嬢様だったのね」
「それならいい経験だと思って、そのままぱくっと」
ぱくっと、ぱくっと。周りの声に進められて、ナンナはまじまじと、顔が写るほど真っ赤に熟れたリンゴに向かって口を開く。唇の中で、かし、と前歯が皮に入ったとき、
「へえ、リンゴだ、僕ももらっていい?」
と声がして、少女たちは一斉に振り向く。
「リーフ様」
「僕も一個もらっていかな」
「どうぞどうぞ、あ、周りにも分けて差し上げてください」
「わ、ちょっとまって、僕はこんなにもてない」
一個だけと思ったリンゴがあちこちから飛んできて、リーフはそれを腕に抱えるのに懸命だ。
「よかったら、そのかごの方を貸してくれないかなぁ」
「あ、そうですね、かごごと持っていってください」
かごをひょいと持ち上げたとき、ナンナと目が合った。ナンナは、リーフが突然きたのと、自分がリンゴにじかにかぶりついているのを見られた恥ずかしさがあいまって、リンゴから口が離せない状態で固まっていた。リーフも、そんな彼女の振る舞いに虚を突かれでもしたのか、
「じゃあ…配ってくるよ」
といって少女たちから離れるが、一気にそのかごが重くなったような、ふらりとした足取りになっていた。
「リーフ様、どうしちゃったのかしら。さっきはあのかご軽々片手で持ち上げられたのにね」
「さあ…
 ナンナが、リンゴの丸かじりなんてことしてるの始めてみて、ショックでもされたのかも」
そう言う会話の中、やっとナンナの口がリンゴから離れる。前歯の痕がぽつんと残ってるだけで、食べた気配はない。その肩の後ろ側から、ナイフがそっと渡される。
「…リーフ様」
「せめて、切り分けるぐらいはした方がいいんじゃないかなと思って。そのリンゴはちょっと、大きいから」

 その夜。配りきれなかったリンゴは、結局各人に強制配布になって、リーフの部屋にも二人分のリンゴが、部屋のテーブルで山になっている。その中のひとつを、ナンナはくるくると皮をむいている。
「これでしばらく、夜おなかすいても困りませんね」
とナンナは言うが、リーフは
「…うん」
と生返事をした。

 昼間のナンナを思い出してみる。
 リンゴに触れている上唇の形といい、戸惑うような上目遣いといい、あれじゃまるで…この間と同じじゃないか。
 ただ違うのは、その時のナンナは、すっかり上気した顔で、目じりに涙がにじむほど恥ずかしそうで、リンゴではなく…リーフのバキバキに硬直したその先端を唇の中にしていたわけだが。
「やり方を聞くの、とっても、恥ずかしかったんですよ…」
というナンナの口は、まだ小さいのか控えめにしているのか、その先端に続く幹の部分はいつものように手であしらわれていた。
 前から、そう言う方法があると聞いていた。しかし、口で触れてもらうのはすこし抵抗があって、切り出すのを迷っていたときに、ナンナが
「教えてもらいました」
先回ってきたと、そう言うわけだ。
 本当は、そういうことがしたくて仕組んだことなのに、これでは主客逆転だ。はじめそう思いつつナンナのしたいようにされたが、リーフのどこが急所なのか、ナンナは一通りは理解している。それを指ではなく、舌で愛撫されているのだ。彼のまじめな思索など、すぐに四散していった。
 リーフの分身は、世間一般から見れば、余分な皮もほどほどで、まさに「一皮むけた」風なのだが、指では敏感すぎて触れない亀頭のふちを、恥ずかしそうに出した舌ですうっとなでられたときは、
「うわあっ」
脊髄に何かが駆け上るような感覚に声を上げてしまった。
「痛いですか? あまり強くすると痛いから、そっと、と言われたのですけど」
まじめに顔を上げ、たずねてくるナンナに
「違うよ…びっくりしたんだ。口でされるのが気持ちいいなんて」
「まだ、練習中ですよ?」
「これ以上上手になられると、僕は干からびそう」
リーフが照れ隠しに混ぜ返すと、ナンナはことさらに頬をそめて
「私、そこまでしません」
という。
「わかってるよ」
リーフはなだめるようにナンナの頭をなで
「でも今はもっとしてほしいな」
と言った。
 ナンナが、また亀頭をかわいらしく含む。舌がその亀頭の硬さを確かめるようにうごめいて、ナンナはほんのりと上気した。
「リーフ様」
「ん?」
「そろそろ、おつらいですよね…
「…口の中で受け止めるのがこのやり方の最後らしいのですけど…まだ私…」
こねりこねりと手のひらでいとおしそうにするナンナの心中をつい察して
「怖い?
 それなら、いつもどおりでいいよ」
と、リーフはナンナの両手を自分に触れさせた。

 ぼんやりと、その回想をしていると、
「リーフ様ってば」
とナンナがが声をかけていた。
「リンゴ、いかがですか」
「あ、ありがとう、もらうよ」
切り分けられ、硬い芯を除かれたリンゴを、二人でしゃくしゃくと食べる。
「みんなすごいな…そのまま食べられるのですもの」
ナンナがため息をつくように言った。
「でも、ナンナまでまねすることないのに」
「アレはまねじゃなくて…その…何事も経験ですから」
「おかげで、変な想像しちゃったよ」
そうリーフが返すと、ナンナはやはり同じことを思い出していたのだろう、リンゴをつまみながら真っ赤になった。
「…すみません…」
「いや、そこで変な想像に持ってゆく僕が悪いんだけどね。
 でも、あの唇がかわいくて、つい」
ナンナは真っ赤のままうつむき、持っていたリンゴの欠片を飲み下すように食べた。空いた皿をテーブルに戻して、寝台に戻ると、
「昼間からいいもの見たよ」
リーフが、満足そうな笑顔をしている。ナンナはリンゴのような顔色のまま、
「しりません」
あさっての方を向こうとした、が、布団の中でその体は動けないほどに絡めとられて、
「んむ…」
りんご味の長い接吻。そのあとリーフが
「口でするの、最後まで挑戦する? 僕も少し興味があるんだ」

 寝台の上に起き上がり、膝立ちのリーフの前にナンナが座る。
 大ぶりのリンゴをかじりとるにはいささか小さいナンナの唇の中に、半ば硬直したリーフが入ってゆく。亀頭までで一度とめて、下からの伺うようなナンナの視線に、
「もう少し…入らないかな」
と言う。ナンナは目を伏せがちにして、さらに、指二、三本分までを口に入れた。
「それでいいよ。ちょっと動くよ…」
怖がらせないように、ナンナの頭にそっと手を添えて、ゆっくり、彼女が進歩して口にしてくれた分の間で、二、三度ゆっくり腰を使う。
「んむ…む」
口を塞がれたままで、ナンナは喘ぎともつかない息を漏らした。それよりも、リーフの
「ぁぁぁ」
という声の方が大きかったかもしれない。亀頭がナンナの舌で優しく受け止められ、裏側にある敏感な辺りが少しざらついた舌に絡まる。彼女の口にはいっていない部分まで、バキバキに硬直してゆくのが自分でもわかる。
 その刺激をもっと味わいたいと、闇雲に腰が動きそうになるのをすんでの理性で思い留まり、
「今ぐらいでいいかな。全部はまだ恥ずかしいよね?」
とたずねると、ナンナは答えない代わりに,リーフの足にそっと手を添えて、首を揺らしはじめた。
「ぁ、ぁ、ぁ」
こんなことでもだえ喘ぐなど、人が知ったら笑うかもしれない。しかしリーフも、手でしたりされたりはあっても、口の中は初めてだ。ナンナの体温がじかに伝わって、湿ったその中は、いやがうえにも、本当は望んでやまない、あのかわいらしい入り口の奥を想像させた。
 時々、ナンナの舌が、亀頭の硬さを確かめるようにうごめく。
「!」
リーフは息を引く。それも方法のうちと教わったのだろう。亀頭だけくわえ、その先に舌を差し入れたりする。
「ぁぅっ」
腰の奥の神経が、いよいよ限界を告げていた。自然、腰が動いてしまう。それに戸惑うナンナの表情が見える。
「あぁっ」

くぷっ。

 「…んく」
ナンナの口の中に、熱くとろりとしたものが噴出された。彼女の、はにかむような赤い唇から抜き取られた後を、二滴、三滴と名残の滴りが追う。
「ごめん、ここまでするつもりじゃなかったのに…」
ナンナは、口の中のものをつとそばの布でぬぐい、
「大丈夫です」
といったが、どうもその顔は複雑だ。
「やっぱり、僕、勝手すぎるかな… ナンナがせっかくがんばってくれたのに」
「気にしないでください。…その…口の中は…」
「?」
「本物のように感じる人もいるって、聞いてますから」
そういうナンナの顔は、また真っ赤だ。ややあって、
「リーフ様」
ナンナは、まだ赤みの残る顔を上げた。
「むきかけのリンゴが、まだあるんです…いかがですか?」

 労働後の一服、とでも言いたそうな顔で、リーフはリンゴにかぶりつく。ナンナも、切り分けた残りのリンゴをしゃくしゃくと食べるが、リーフのように爽快感を味わうためではなかった。
 教えてもらって、覚悟してはいたけれど…あの味は、愛の確認などといって飲み下したりは、なかなかできない味だった。
「ナンナ、まだまだだめね」
自嘲するように呟くが、色気と食い気を十分に満たして後は寝るだけの陶酔にいるリーフには、幸い聞こえなかったようだ。

 リンゴの残り香の漂う部屋の中、なぜかナンナはまんじりともできずにいた。ちらりと隣を伺うと、リーフは前後不覚に寝入っているのか、寝息すら聞こえない。
「おかしいわ」
その眠りを邪魔しない程度に小さく、呟いてみる。
 今日は、自分が少しがんばって、口でご機嫌になっていただいたけど…自分、まだなんか変。
 全身なでられたような小さな興奮がくすぶるように残っている。ナンナは、部屋の主の眠りを妨げないよう、そっと寝台を抜けた。

 仮眠にも使えるばねのきいた長いすにもたれると、案の定、胸の先がつくん、と、衣装を持ちあげていた。手が入るだけ前のボタンをはずし、隙間から差し入れた指でそれに触れる。
「ん」


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