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「!」
アイラのからだがのけぞるように硬くなる。触れるだけでも強い刺激なのだ。アイラの全身が、ぱっと、華やぐように紅潮する。その聖痕をするすると撫でながら、レックスは顔を上げた。目を閉じたままのアイラを、頬を軽くなでて目を開けるように促して、
「お前、やっぱ綺麗だよ」
といった。頬に当てられた手に自分の手を重ねて
「本当か?」
とアイラが尋ねる。
「自覚ねぇの? まあ、周りに比較対称ないしな」
する、と、からかうように、また指が動いて、アイラがまた目をきゅっ、とつむった。
「そんな顔も、俺だけが見られるってのも、またオツなもんだね」
「…拙かろう…お前がいままで相手した者と比べたら…」
「あ? そんなのもう忘れた」
胸先と聖痕に指でちょっかいを入れながら、レックスはくす、と笑うように言った。
「今のお前に比べたら、お前以前の女は本当にお遊戯さ」

 アイラにとって、ゆったりと、こんなに時間をかけられて、愛撫されることなど初めてだった。子はあっても、子を得るようなことを行ったことがあっても、それは作業も同然で、体はともかく、アイラの琴線は、何も知らない乙女も同然だ。
 冬の間、自分をいたわりながら隣で眠っていた男は、こうも優しい顔で自分を見守っていたのかと思うと、しがらみなど、たやすく解けてしまいそうだ。
 それよりも。聖痕をなでられるとしびれるようだ。からだの力が抜けてしまう。毅然であれと律してきた自分が、別の自分に支配されそうだ。
 アイラは、自分から手を差し伸べ、レックスの体に腕を絡めた。絡んだ脚に、熱い塊を感じる。そして自分も、体の奥が熱い。
「…熱い」
アイラが呟いた。
「暑いか? 風通すか?」
「違う。…お前が、熱い」
「…ああ」
納得したような顔を顔をして、レックスがまた唇を寄せてくる。
「そりゃ熱いさ、ほとんど一年分だからな」
聖痕をなでていた指が、斜め下に降りた。くせのない、さらりとした体毛が指に絡まる。アイラが、自分からは見えない下の方をみて、戸惑うように彼の顔を見上げた。
「まだだよ」
レックスが言った。
「も少し楽しみな」

 体毛の中に、指をしのばされて、
「…っ」
アイラの背中は、何かが走るようにぞくっとした。手のひら全体で押すようになでられて、びくびくっと脚が震える。絡めていた腕が、こっとりと寝台に投げ出された。
 指がつい、と、奥への入り口にあてられて、
「っ!」
奥歯をかむ。
「声、ださねぇの?」
つまらなさそうな声でレックスが言う。アイラは、唇を明けたら、全部言葉にならない声になりそうで、唇を硬く閉じ結んだままかぶりを振った。その硬い唇に
「しょうがないね」
ついと唇を当て、
「聞こえるのがそんなに恥ずかしいなら、俺が唇ふさいどくわ」
と、今度は唇を、隙間なく埋めるように絡めた。そして、奥への入り口で指を遊ばせる。
「ん、ん、んぅぅ」
アイラがのどを鳴らす。包むように覆っていた指が、ぱくりとそのひだを分け、入り口の上のあたりを指でゆっくりとなでる。
「ふ、んむ、ふ」
そして、ちょうど体毛の中に隠された真珠のような粒を、つい、と指で引っ掛けた。アイラが唇をふりはなして
「はうっ」
と体をのけぞらせる。
「は…」
レックスの丸くなった目を見返して、アイラはかあっとあかくなって、袖を通しているだけといった薄物の、その袖で顔を押さえた。
「出るんじゃん」
レックスはうっすら、嬉しそうな笑い顔をして、その真珠を撫でさする。
「ふ…ふは、あ、…ぁぁ」
「そうそう、ちゃんと声にだすと、ずっと楽になるもんさ」
アイラは、自分の出す声がこんなに艶めいているのが恥ずかしかった。しかし、自分が受けている刺激は、いやがうえにもそうさせられてしまうだけの何かがあって、
「ぁ、ぁぁ」
身をよじらせて逃げようとしても、脚が絡んでいるので逃げられない。
 熱い。腰の奥が熱い。そう訴えようとしたとき、あの入り口から奥のほうに、ぐうっと何か差し込まれた。
「!」
「…痛くないか?」
と、レックスが聞いてくるので、やっと、あの場所に指を入れられたのだとわかった。
「いっくら子供うんだっても、三回目だろ?」
「痛く…ない」
むしろ、その指の存在感が、一層腰をけだるくさせていた。
「医者から無理させるなって言われたからさ…」
その指が抜き差しされ、入り口にはその出入りの感触が伝わり、ひくひくっ、とその場所が震えた。
「お、お前からは…どう見える?」
「言っていいの? 恥ずかしくて失神するぞ」
「そんなことでするか」
「今、指を締めただろ」
「は?」
「あとな…ひだがぽってりして、指入ってるのが丸見えで、さっきお前がすごい喜んだアレがぷっくりふくらんでるわ」
「…」
確かに、アイラは失神はしなかった。だが、真面目に観察されて、真っ赤になった顔を見せづらくなり、レックスの胸板に顔をうずめたくなってくる。
「うはは、お前顔まで熱い」
「うるさい」
指のあしらいが変わる。そのふくらんだ真珠をぐり、と押し込まれるようにされて、
「ああっ」
アイラの全身がそのものになったように震える。腰が重い。もう動けない。どうすればいいんだろう。

 目じりに涙を滲ませ、真っ赤な顔を胸に押し当てて、真珠をはじくほどにぴく、ぴく、と全身を振るわせるアイラは、何だか自分よりずいぶん小さく見えた。もともと柄もそう大きくはないが、それが一層実感される。
 指を離すと、アイラはその抜かれる感覚にさえ
「ぁ」
と声を上げて、真上に乗り上げた自分を、黒真珠のような、潤んだ目で見上げて来る。
「入る…のか?」
と尋ねるアイラに、小さく頷いた。手をとり、自分に導かせて
「これが入る。怖かったら、止めるぞ?」
一応、確認した。アイラはそれに、一度目を閉じて
「一年、待たせて済まない」
という。レックスはため息をついて、
「萎えるから、そんなこだわりもう捨てな」
アイラの鼻先をまたつついた。手を戻して、ヒザ裏に回す。脚を少し広げ、先を入り口に当てると
「あ」
アイラが甘く息を着いた。
「そうそう、力抜いて、俺をよーく感じてろな」
そう囁きながら、半分ほど入れる。アイラが目を閉じ、
「っっっっ」
と震える。抜いて、また半分入れる。それを何度か繰り返す。これまでゆっくり堪能したことなどなかった。アイラは体の大きさ相応に迎え入れてくれる。絡みつくようだった。
「……ぁぁ」
抜こうとすると、アイラがきゅ、と体に力を入れる。腕の中を見ると、アイラが浅く息をつきながら、潤んだ目で自分を見上げていた、ついつい、子供にでもするようなしぐさで頭をなでて、
「わかったわかった」
最後にはゆっくりと、根まで入れた。先端が、こり、と何かに触れる。思わず、腕の下の細い体を抱きしめた。
「ふ、ふぁ?」
「アイラぁ、俺、泣いていいか?」
「どうした、突然」
「お前、めちゃくちゃ気持ちいい」
「…そうか」
アイラは、腕の下でそう言った。

 一年分の思いと我慢がこもってしまうのを、何とかレックスは思いとどまりながら、慎重に腰を使う。調節することで、思っているより長くもっている気がした。しかし、アイラはそれを素直に受け入れて、喘ぐでもない、浅い息をついている。
 その息が、細い声になった、
「…ふぁ」
「どうした? 辛いか」
レックスの汗が伝って、肩に落ちるのも知らないように、アイラが
「おかしい」
といった。
「何が? どうおかしい?」
普通なら、その内容を口に出すほうが恥ずかしいだろう。しかしアイラは、潤んだ目のままで、
「奥がけだるい」
と言った。レックスは額に唇を当てて、
「そんな奥まで突っつくと、体びっくりするぞ」
ただでさえ、アイラの中は複雑に絡み付くようで、戦いで鍛えられた筋肉が、知らずにレックスを絞り上げているというのに。
「そこは一番美味しいところだ、とっとけ」
「かまわない」
アイラが言った。
「双方にとって一番美味しいところなら、二人で味わうべきだろう」
「いうねぇ」
レックスはにや、として、
「本気出すぞ、ついてきな」
と、まるで戦場にでも連れ出すように言った。

 ぎしっ 寝台がきしんで、アイラが
「あっ」
と声を上げた。深々と刺さったその先端が、アイラの奥にぶち当たる。
「どうだ、ここだろ」
と、きしませながら言うと、アイラは驚愕したような目で、レックスを見た。
「ん? 奥にきただろ?」
アイラはこくん、と小さく頷いて、寝台の音にあわせて、
「く、くぅ」
と息を詰めた。ぎう、と収縮する。今までこんな奥を突いたこともない。しかし、打てば響くとはこのことか、奥は奥で、入り口は入り口で、アイラは声にしない快感を体で表す。
「ふ、ふはっ」
シーツを握り締めて、アイラが背をそらせる。角度が変わると、刺激される場所も変わる。
「うわ、わ」
うろたえる声を上げたのはレックスの方だ。アイラの中が急に滑らかになる。抱きしめる体は熱い。レックスは、アイラの手を探って、自分に絡ませた。
「奥に、来てるか?」
「来てる…」
「熱いか?」
「熱い」
アイラの手が力を持った。
「はあっ」
艶めいた声が上がる。ほんの少しも引き抜かせまいと、締め付けてくる。レックスは、奥に突き刺して、ぐ、ぐ、ぐ、と、奥底を小突く。
「あ、あ…」
アイラが、全身をぶるっとふるわせた。
「!!」
声はなかったが、数秒の緊張、そして弛緩。最後のその緊張がぎり、と最後の枷を破り、その一年分の思いは、やっとその奥に届けられた。

 アイラは、手足に力もはいらないのか、深く息を付きながら、潤んだ目を閉じようともせず、レックスもぐったりと、その体を抱きこめたままで、すぐには何もしゃべれない。完全には萎え切らない状態で、二人はまだつながったままだ。
「溶けた…」
アイラが、ぽつりとつぶやいた。その場所から、つう、と、白いものが滴る。
「アイラ」
「ん?」
「俺、お前で本当によかった」
はあ、とため息をつく、レックスの声は、少し涙ぐんでいた。その涙をシーツで汗ごとぬぐったのか、レックスはやおら顔を上げ、
「とりあえず、離れるか。恥ずかしいだろその格好のままじゃ」
という。しかしアイラはまだ離れがたそうだ。それでもレックスはつるん、と萎えたものを抜く。
「ぁ」
アイラが少し艶めいた声を上げた。
「しかし…昼間二人で部屋に缶詰じゃ、なにしてるかバレバレだな、違う方法考えるか」
レックスが言うと、薄物をまとい、帯を締めなおしながら、アイラは
「…郷に入れば郷に従えという言葉がある」
と言った。
「何だ?」
「他国にあれば、その他国の風習に従う。ということだ」
「はぁ。それが今と何の関係があるわけ?」
「これからは朝の支度を、二人分用意させれば済む話だ」
「お」
レックスがつい声を上げると、アイラは振り返って頬を緩ませた。そして彼の前に正座し、ついと指をついて一礼する。顔を上げて
「これからもよろしく頼むぞ、旦那様」
名残のはにかみを目じりに残した笑顔でそう言った。

 それからの二人の余りの仲よさそうな姿に、また双子が生まれやしないかと、セイレーンの住人たちはうわさをしたとかしなかったとか。

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