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趙雲はぽかん、として、
「…すると何だ、お前は鯉一匹を戦支度の中に入れてきたのか」
「桂陽に置き去りではかわいそうで…それに、連れて行ってほしいと私に言っているような気がして」
彼はしばらく言葉を失って、それから
「…なるほど、今度は私が、それも人ならざるものに悋気を持つ番か」
と、笑うとでもなく言った。
 銀龍はそんなじゃありません、と、言い返す術もあらばこそ。維紫は唇をふさがれて声も出せない。
 そのまま抱き上げられ、衝立に隠された牀までつれていかれ、そこに座った趙雲の腰を維紫の脚がはさんでいるような形になる。何時出陣があっても用意の遅れのないように、二人は防具をはずしたいわば鎧下のような格好でいるわけだが、それを全部脱ぐわけにも行かず。声が漏れないように、唇同士はぴったりと合わされ、その中で舌は絡み合う。
 桂陽で思いがけず許された維紫の体は、まだかたいつぼみのようで、もの恥ずかしい仕草が打ち解ける様子はほとんどない。太守の仕事に追われて、維紫の屋敷をやっと訪れることはあってもせいぜい酒食を供されたところで帰らざるを得ないことも一度二度の話ではない。
「ん」
維紫が小さく声を上げた。趙雲の手が、維紫の胸に当てられていた。唇が離されて、わずかにつやめく唇を指で軽くぬぐい、維紫は趙雲の肩に両手を掛けた。
「あの…ここで…するのですか」
「ほかにどこがある。私の幕舎が良いか?」
「春鶯が戻ってくるかも知れないので…」
「お前が連れている部下は一人二人ではないだろう」
言いながら趙雲は、鎧下の上から維紫の胸の先をきゅっ、とつねった。服の上であるから、いつもより力加減は強めだ。
「あ」
額を趙雲の胸に当てて、維紫は小さく声を上げた。まだ、女ならたいてい火のつくような勘所でなければ、維紫の体は打ち解けてくれない。無理を強いているようで、これでは代償の要らない妓女のようなものではないかと思わないこともなかったが、ふと見えてしまう維紫の物腰や表情は、無理を強いてでもと思わせてしまうのだ。
 あわせが緩むほどに、両の手で胸のふくらみを弄ぶ。柔らかいが、張り詰めた肌の感触が、服の上からも伝わる。
 また上を向けさせ、唇を合わせる。緩んだあわせに手を差し入れて、直接膨らみに触れる。ふっくらと、暖かい。その先を、指で押しつぶす。
「ぅん」
跳ね返るように尖るその先を、触れるかどうかの加減で撫でる。
「んん、ん」
維紫の手に、わずかに力が入った。緩んだあわせの中におもむろに顔をいれ、離れると、維紫の胸に、花びらのような赤がのこった。もっとも、服を調えてしまえば、隠れてしまう場所だが。その花びらほどではないが、維紫の頬も、ほの赤く染まっていた。

 戦場は、そもそも命のやり取りが行われる、凄惨にして神聖な場所であったはずだ。
 維紫がいて、その身上が崩れたとは思わない。本人にはわかるまいが、今の彼女には抗いがたかった。彼女は何かを欲しているように見え、与えられるものといえば、この体しか思いつかなかったのだ。
 腰の辺りを引き絞る紐を緩め、その中に手を入れる。すでに脚を開かれているのと同じ格好になっている維紫のすべてにさわれる。幼子でもあやすように時をもたねば濡れほころびもしないその場所は、今に限れば、柔らかくほぐれ、熱かった。
「場所が違うと気分も変わるのか?」
困らせたい一言がつい出る。維紫は顔を背けて
「そんなこと…わかりません」
と答える。維紫の反応はいつもこんなものだ。趙雲は自分も衣をくつろげ、維紫の服を腰から下を取り去ってしまう。
「初めての姿勢だが…耐えられるか?」
そしてその答えも聞かず、ぬる、と、維紫を抱きかかえ、己の上におろしてゆく。
「あ…」
うつむいていた維紫は、自分がそれをいとも簡単に納めてゆく恥ずかしさと、、まだなれていない奥への道が開かれる鈍い痛みに、趙雲の首にすがりつく。
「だめ…です、もう…」
「そうか」
ほころんだといっても、半分を呑んで音を上げるほど、維紫の中は狭い。しかし膝に抱え上げるこの姿勢では、深く入らないのは仕方ないことでもある。
「あっ」
すがりついたままの維紫が、目をわずかに開いた。敏感な芽に指が当てられ、ぐり、と体に押し込まれるようにひねられる。
「…っあ…」
声が上がりそうになるのを、自分の衣の袖をかんでこらえる。維紫の体はその刺激に誘われて、きゅうっと緊張する。のみならず。
「!」
趙雲が動いた。姿勢は、ただ膝に抱えられたままなのに、維紫の中を探るような動きが伝わってくる。
「な…なんですか…」
維紫が思わず、体を突き放すようにして尋ねた。
「!」
その間にも、不思議な動きは続き、刺激は止まらない。何もわかった風でない維紫がよほど面白いのか、趙雲は維紫の手を、自分の素肌の臍の辺りに当てさせた。
「あっ」
「体を鍛えれば、造作もない」
うごめくものと、趙雲の腹筋が連動している。
「お前は、そんなことをせずとも、十分私を楽しませてくれているが」
くりっ 芽を撫でられ、維紫はまた、目の前の胸にすがってしまう。ひく、ひく、と短い痙攣が続いて、軽く上り詰めてしまったものらしい。

 「よく耐えた」
初めての姿勢を、面映げにしつつも拒否しなかったことを、趙雲は軽くほめた。しかし、あの後も、絶頂の寸前の陶酔を味わわされていた維紫は、くったりとして、牀に横にされたのもわかっていないようだ。
「雷姫」
一度声を掛け、我に返させる。
「…」
「辛かったか?」
「…いえ」
嘘ではないようだ。姿勢を変えるために一度はずされたあと、維紫からは滴るほどに潤みが落ちた。
「戦いが楽になれば、気兼ねせず一日でもこうしていたいものだが」
「…もったいないです、私には」
再び入ってくるものを、身を震わせて受け、
「私は…」
何かを言いたそうな唇は、すぐに言葉をなくした。

 維紫達がここに到着してから一月二月という時間がたっても、目の前の城は開く気配を見せない。
「お堅いお嬢さんなこった」
ホウ統が飄々と言った。
「そのお褥に入れるまで、いつまでかかりますかってなもんで…」
もっともだ、と、諸将笑う中、月英や尚香は複雑な顔でいる。
 小競り合いや力試し程度の、さほど高名でない将の一騎打ちなどがたびたび行われ、あるいは本格的に攻城戦をしかけても、城はがんとして開城しない。
「寒くなると、幕舎暮らしがつらくなりますなぁ」
「全く…」
と、軍議が果て、三々五々散る中に、維紫の姿はなかった。
 その頃維紫は自分の幕舎で眠っていた。卓にある食事は昨晩のもので、手がつけられた様子はない。春鶯がそれでもいいというので、そのままにしてある。
 銀龍も、最初のうちは甕ぐらしだったものが、いつ終わるともない包囲戦の中、近くに見つかった川に、籠ごと沈められているようになった。
 春鶯が維紫の幕舎に入ってくる。揺すり起こされて、維紫は
「…ああ、また眠ってしまったの、私」
と言う。
<湯だけでも召し上がってください、冷めているので大丈夫だと思います>
「ええ、そうする」
卓で匙をとり、さめた湯を一口口に入れる。
「大丈夫…かな」
自分の体と相談するように行ってから、維紫は、湯と、同じく冷ましてあった粥を器の半分ずつぐらい食べた。
「もういいわ」
食器を押しやる維紫が、呟くようにいう。
「変ね…暖かいと食べられなくて、さめると食べられるなんて」
銀龍の様子も見たいけど、今まで気にならなかった鯉の臭いが気になって、すぐにも帰りたくなってくる。一度軍についてきた医者に見せたが、
「膠着状態が長いですからな…ご気分が倦んでこられるのも仕方ないこと」
と言い、冷えるようなご格好でお眠りなさるな、と、薬ともいえない、軽い処方で帰って行った。体調が悪いようなことは一応趙雲も把握はしているようで、
「何時強行突破となるかわからん、軽いうちに癒すように」
と、そう言った。

 おかしいのは春鶯で、彼女だけは理由を問う暇もなく、あれだこれだと維紫の生活に指示を出す。食べたくないという維紫に、気が向いたときに、さめたものでもいいから食事はとるようにと言ったのも春鶯だった。まるで、今の維紫と同じ病気のものでも看たことがあるような手馴れた扱いである。
 そのうち、春鶯が
<とても失礼なことをお聞きしますが>
と、維紫に簡を差し出した。
<例の月ごとのものはありましょうか>
「え…」
維紫は、少し上を向き、記憶をたどり、
「そういえば…来そうな頃に来なかった…」
と呟くと、春鶯は目を見張り、幕舎を飛び出していった。
「春鶯?」
一人残されて、維紫は
「変な子」
と首をかしげた。


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