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 阿蒙のぶっきらぼうな態度にぷう、とむくれた顔をして、阿美は自分で巻物を広げる。
「うわあ」
と、あげた声には全くのおそれも恥じらいもなく、
「裸の男の人と女の人がいっぱいだあ」
と言った。いや、阿美だからそれで済んでいるのであって、これがもう少し何かを知り始めた娘なら、そんなことは思っても言わないはずだ。
「だからもとに戻して来いって言ったのに」

あいにく、姉は実家の母のところにいて、義兄は相変わらず山越相手に出て行った。だから、この書物の説明は、阿蒙がしなければならないことになる。
「俺が説明するから、姉上には絶対、何も言うなよ」
「うん、ないしょないしょね」
「それはだな…」
夫婦が閨の中でいろいろ行う時の姿勢の本だ、と言っても、阿美はにわかには信じられないようだった。
「どういうこと?」
と尋ねられても、阿蒙と阿美で実践するのは倫理的によろしくない。しかし、説明だけでは阿美は全然理解した様子でもなく、何より、自分がその中身に興味があった。
「そうだな、まず、この一番最初の図は」
と、阿蒙は学者のように言いながら、阿美を寝台に上げて、服のままその体勢をとった。基本の基本、正常位である。
「こういうことだ」
阿美もハスが二驚いたのか、
「お兄ちゃん…この格好、足がすごくひらいて恥ずかしいよ…」
ぼそぼそといった。
「いや、そうじゃないとだめだから」
「なんで?」
「子供を作るためにするんだからな、本当は服脱いで、絵みたいなことになるんだぞ」
「…男の人になんか、長いのついてる。阿美にはないよ」
「お前にあったら大変だ、その長いのをだな、入れて、なんかすると、そのうちできるってわけだ。わかったか?」
阿蒙の説明はとても投げやりだったが、阿美はなんとか自力でわかろうとしているようだった。自分のヘソの下あたりを撫でるようにして、
「…あたし、これでお兄ちゃんの子供出来ちゃった?」
と言う。服の隔てはあったが、ほとんど密着状態なのだ。それを、
「格好だけで出来るか」
ほい、と阿美を解放して、阿蒙は阿美みたいなのよりは、やっぱり妓女みたいなもっと発達しているほうがいいなぁ、などと、勝手なことを思っている。と、
阿美が何かむずむずとした表情でいる。
「阿美?」
「あのね、あたし…、もう、子供、作れるんだって」
「うぇぇっ?」
そんな話は聞いていないが、そういえば大分前に、阿蒙が戟の鍛錬をしている間に、家の中で、母だの姉だのが集まって、阿美のことをなにか嬉しそうに話していたのは見た気がする。
「お兄ちゃんとあたしでも、こういうことしたら、できちゃうのかなぁ」
「そりゃ…出来る体なら、やったら出来るかもな」
かなりヤバい話になるが。阿蒙は半分係わり合いになりたくない、と言う声で言った。
「子供が作れるから、そのうちお嫁に行くかも知れないって。
 でも、全然知らないひととこんなことするの、恥ずかしいな…」
「恥ずかしくても、それが夫婦の務めなんだから仕方ない」
「あのねお兄ちゃん」
呼びかけられて、阿蒙は瞬間、嫌な予感がよぎった。そして、その予感は的中する。
「…あたし、そう言うときに恥ずかしくないように…練習してみたいの。お兄ちゃん、手伝ってくれる?」
案の定か。阿蒙は額を抱える。断ろうかと思って阿美を見ると、阿美の顔は期待と言うより、覚悟の顔だった。
「だめ?」
その上で、首をかしげられて、阿蒙はびく、とヘソの下が動くのを感じた。おい待て、相手は阿美だぞ。そんな理性の語りかけなど聞きもしない。
「…これっきりだぞ」
阿蒙はそう言った。

 「えーと、これがこうなって」
形ばかり帳をひいて、ほんのり薄暗い空間を作る。阿美は想像のとおり、妓女のようなしなやかな体つきなど程遠い。広げられた脚の辺りは、暗くてもっとはっきりしないが、触るとつるつるしている。そこに、絵にあるとおりの裂け目のようなものがあった。
「ん、どうなってるんだ」
阿蒙はその裂け目の中を指で探る。阿美は
「く、くすぐったくてきもちわるいよ…」
と、弱弱しい声を上げている。阿蒙のほうが今にも雄たけびでも上げそうな勢いで、阿美はそのほうが気になるようだった。
「本当にそんなの、あたしの中にはいるの?」
「入るんじゃないか? 絵では入ってるんだし」
薄暗い中ためつすがめつして、このあたりか、と指を押し入れると、阿美が
「痛い、痛いよぉ」
と声を上げた。しかし、指はぐいと付け根まで入り、入れる場所自体は間違っていないようだ。
 無知は怖い。前戯もなく押し込もうとしても、阿美はそれからじりじりと脚で逃げようとする。
「逃げるなよ、練習にならないだろ」
「だって痛いんだもん」
そう言う阿美をやっと寝台の端でつかまえて、いざ、とかまえると、あにはからんや、阿美の入り口はつるっと、阿蒙を拒否した。
「ここだったハズだよな…」
「お兄ちゃん、あたしもう痛いの嫌だよぉ」
阿美の涙声がして、阿蒙はやっとあきらめた。
「まあ、どういうことするかだいたいわかったからいいだろ」
「…うん」
阿美がそう言うので、阿蒙は体を離そうとする。が、阿美がしっかりと絡み付いて離れない。
「あ、阿美、練習は終わりだから離れろ」
「やだ」
「阿美!」
「あたしのおなかにくっついてるお兄ちゃんの、あったかい」
くすくす、と笑うように言う。
「お兄ちゃんは、さっきの痛くなかった?」
「いや、別に…」
「痛くなかったんだ。変なの」
痛いどころか、敏感な先の辺りで探ったり押し付けたりで、いよいよどうにも
ならないわけだが。そんな阿蒙に、阿美がささやいた。
「お兄ちゃんが触ってるときに、ちょっと気持ちいいところ見つけちゃったの」
「な」
「…んしょ」
阿蒙の戟が、まだ未熟な阿美にはさまれる。そして、阿美がつい、と腰を浮か
せるようなしぐさをした。
「…ぁ」
阿美が、聞いたこともない声を上げる。その仕草が少しずつ大胆になり、頬を染めて息を荒げる。
「やっぱり… こんなところにこんなの隠してて、神様ってずるい…」
小声で言う。阿蒙も、阿美に図らずも擦られる形になり、
「…うっ」
ついうめく。
「お兄ちゃんも、気持ちいい?」
「…まあ、な」
阿美の、熟れるには程遠い裂け目から、ぬるりと何かが染み出して、阿蒙の先走りと混じって、ぬちゅ、と音を立てる。
「あ、あ、ぴりぴりするぅ」
お兄ちゃぁん、とすがってくる阿美の体を抱きすくめて、阿蒙も腰を使っていた。
「あ、あ、なんか、ぴりぴりして、おかしく、なっちゃ…あぁぁっ」
ぐずり泣くような声の中で、阿蒙は阿美の腹に、白く熱いものを迸らせた。

 「いやに、生々しい夢だ」
目を覚まして、体の冷や汗を確認しながら、呂蒙はそう呟いた。しかし、目を覚ますことは出来ても、体を動かすことは出来ない。何かに抑えられているようだった。
「夢魔…か」
金縛りを掛けて、その間に精を搾り出そうという魂胆か。それに抵抗したくとも、呂蒙の体は動かない。
 かろうじて、目を動かすことは出来た。その上で、自分を押さえつけている夢魔の正体を確かめようとして…
 呂蒙は固まった。

 「ああああああ阿美っ!」
「あぁ、お兄ちゃん…起きちゃった」
「起きちゃった、じゃない、何してるんだ!」
「お借りしてまぁす」
と呑気に阿美が言う。乱れた衣の隙間から、あの頃のすべすべからは想像も付かないふくらかに熟れたものが見え、さらにそれが、屹立した呂蒙のものを根元まで飲み込んでいる。呂蒙も今は当然経験者だ。そして、この状況がいかに危険かを、前以上に知っている。
「お兄ちゃんの、すごいの。あたしの気持ちいいところに全部あたってるの」
阿美はとろけたように言って、自分から腰を揺らして、くぷ、ぬちゅ、とことさらに音を立てる。
「そう言う問題じゃない、誰かに見られたらどうする、早く降りろ」
「やだ、あたしもうちょっとなの…」
阿美はなまめかしく腰を使いながら言う。その肢体は、今はいない二人の夫に十分鳴らされ、熟れていた。
「それに、朝のお兄ちゃんは、何も出さないから」
「目を覚ましたら、出すかもわからんぞ」
呂蒙はそう言う。これまでだって、知らぬうちに出している事だって否定できたものではない。
「あっ」
阿美は突如、くい、とあごをあげる。
「ふぁ、ぁぁぁぁ」
上り詰めたのか、自分の体を抱きしめるようにして、体をふるふると震わせた。呂蒙が思ったのは、ただ、自身がここで暴発しなかった安堵の感情ばかりだった。

 「幽霊の正体みたりなんとやら、というが」
居住まいを直して、牀に腰掛けている阿美を、つくづくというていで呂蒙が見る。
「まさか、夢魔の正体がお前だったとはな」
「何よ、人を狐みたいに」
「何かあったらどうするつもりだ。叔父と姪の間の子供など、公に出来まい」
「お兄ちゃんの子供なら、あたし一人で育てるよ」
「後でわかって気苦労を背負うのは、生まれた本人だ。」
呂蒙はそこまで言って、
「阿美、お前…」
「ん? まさか」
阿美は、もしかしたら自分の子供が出来たかとあわてる顔の呂蒙を軽く笑んで振り返って、
「やっぱり、私がいつまでもいたら、迷惑だよね。
 ねぇお兄ちゃん、誰か紹介してよ。あたしより先に逝かないような人」

 「どうだいおっさん、この間のアレ」
数日後、甘寧が様子を尋ねに来る。呂蒙はすでに血色も戻って、一見健康そうに見える。実際、夢魔の正体もわかって、今の彼は若干ワーカホリックなだけだ。
「おかげさまで、まあな」
「それじゃ、これからもごひいきに」
商人のように手もみする甘寧を一瞥してから、呂蒙は、
「甘寧よ、一つ頼まれてくれんか、」
「何スか、改まって」
「なに、どうと言う話でもない、お前の部下や知り合いの、そう卑しからぬあたりで、殺しても死ななさそうな奴を一人二人、見繕ってくれんかな、とね」

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