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 明かりひとつない、あるとすれば月の弱い光だけだ。脇に控えるようにしたメイドらしい声が
「ご主人様が、今をおいてシグルド様にお教えする時はないと仰せになりまして」
という。
「…閨でのお振る舞いを」
「ちょっと待ってくれ、父上の指示だとしても、そんなことはまだ、私には」
「早いことはございませんよ」
メイドたちの手は容赦ない。問答の間にシグルドの服は全部剥ぎ取られていて、
「汗をお取りしましょう」
という。水音がして、やがて、ひた、とつめたい感触が、からだのあちこちでした。
 手足を拭き終え、体を拭き終え、やがて
「失礼いたします」
と一人の声が、吹き終えていない最後の一箇所にさしかかろうとしていた。
「待て、そこは私が」
シグルドのうろたえた訴えの聞き届けられればこそ。ひやりと、布の感触がして、ことさら丁寧に拭き清められているようだ
「!」
脊髄に何かが走った。
「な、何だ、これ」
「お静かに」
メイドの少し冷えた手が、上下に動く。勢い、寝台の縁に腰をかける形になったシグルドだが、こんな感覚は生まれて始めてだ。ぬぐったばかりの汗が、吹き出そうになる。
「…っ」
士官学校の宿舎生活では、規律の乱れる元と言われ、生理的な用件以外では触るなと言われ、寝るときでさえ、やましい行為に及ばないよう、両腕を出して寝ることが義務付けられているぐらいなのだ。そんな部分を、メイドたちは、何か大切なものを扱うように触ったり、こねたりしている。
「お分かりになりますか?」
シグルドを、手でもてあそんでいたメイドの声が、両足の間でする。
「こうおなりになっているのですよ」
そして、シグルドの手を引いて、自分のものに触れさせた。何か熱い棒でも生えているような心持ちだ。
「お一人でなさいますか? 私どものして差し上げたことを、ご自分でなさればよろしいのです」
メイドの声は冷静だ。シグルドは、こころみに、剣の柄のように固くなった自分自身を握り、その手を上下させる。
「ぅぁ」
びくん、と、別の生き物のように、それが脈動した。体の奥に何かが凝る。その凝ったものが、真っ直ぐ、その脈打つものの先にめがけて刺さるように走ってきた。
「ぁ!」
シグルドが小さく声を上げる。直前、彼にはふわりと布が当てられて、噴き出されたものはすべてその中に集まる。
「おめでとうございます」
メイドが、少し、笑いのような感情を込めた声で言った。
「シグルドさまも、これで少し『男』に目覚められましたね」
シグルドは、自分を握り締めたまま、その言葉の真意を測りかねていた。では今まで、自分は何者だったと言うのだ?

 シグルドの息が整うまで、メイドたちはじっと待っている。そして、
「では、次に…」
と聞こえ、彼は横にされた。今しがた「目覚めた」ものが、自分の中で異様に存在感を増している。暗さに慣れた目には、まだ自分は、隆々として、何かを待ち受けているようだった。
 さぱ、と音がして、メイドたちが服を脱ぎ落とした。一人が寝台の縁に、きし、と腰をかけ、
「お手を」
と言いながら、彼の手をとった。直後、手のひらに、ぷわ、と柔らかいものが触れた。これは、教えられなくてもわかる。男性にはまずないものだ。

「…お手が震えてらっしゃる」
メイドが、笑うように言った。
「本当に、ご主人様のおっしゃるとおり、何もご存じない」
「教えがいのある方ですわ」
「…何も知らなくて、何が悪い」
シグルドの返答は、完全に開き直っていた。
「私を笑うつもりなら、部屋を出ろ」
「それはできません」
シグルドに胸をさらわせているメイドが言った。
「すべてを教えて差し上げるよう、そう言うご指示ですから」
「…」
観念したのか、それ以上は言い返さないシグルドに、メイドは、
「さ、このお手をどういたしましょうね。
 柔らかく、お慈しみくださいな」
という。シグルドの指が、その胸の中にふにゅ、とうずまる。押したり、こねたりのうちに、メイドが
「…あ…」
ため息ともつかない息を吐いた。その声が、耳を刺す。
「!」
耳とそれとが、一直線につながっているようだ。ようよう勢いを衰えさせていたものが、また熱を持ち始める。
「おわかりになりますか? 慈しんで下されば、女の体も応えますのよ」
メイドの手が、胸の先に触れさせる。それをゆっくりとつまむと、メイドの体がびくりと震えた。
「ん」
「あら、仕事を忘れたような声を出して」
ほかのメイドが笑った。
「この方お上手ですわ。…ん、あ、いけません、そんなところばかり…」
すうっとメイドが体をひく。シグルドの手が震えているのが、自分でもわかった。あんなに柔らかいもの、触ったことがない。離しがたそうに差し伸べた手を、別のメイドが取った。
「あ、…ここからは…私が…」
そう言う声は、さっきのメイドより若く聞こえた。シグルドの両頬に手を添えて、その唇を吸う。
「うまくお鼻で息をされて下さいね…次は、私が舌を出しますから、それを吸って…ん、んん…お上手です…」
シグルドの手は、無意識に、そのメイドの胸も探っていた。先のメイドほどの質量はないが、ほんのりと暖かく、すでにその先がとがっている。その先を両方一気に力を込めると
「きゃあっ」
とメイドが声を上げた。シグルドに、そのメイドの体が、ゆっくりともたれかかる。
「いけないこと、この子は」
先のメイドらしい声がした。
「仕事であることを忘れて」
「まあ、そう目くじらを立てず…」
別の声がして、
「たまたま体の相性が良かったと言うことでしょう。
 私達は、私達で、仕事をするだけ」
「そうですね」
別のメイドが、また、シグルドのものを手に取った。シグルドはそれに気が付いていたが、すぐ、
「!」
闇の中で目を開く。手とはまったく違う感覚がした。
「あまり深くお教えすると、たいていの女性では満足のできないお体になってしまいますよ」
「でも、御覧なさいな、こんなに素敵なお姿で、一人として女性をご存知でないと、信じられて?」
その新しい感覚は、暖かくて、ぬめって、時々故意に吸うような、先端に力が入ってくる。
「まあ、またこんなになられて…」
また、脊髄がうずいてくる。何にかを耳打ちされて、シグルドにもたれかかってそのあしらいにもだえていた若いメイドは、
「は、はい…」
と、はにかむような声を出した。

 導かれて触れた場所は、なにやらさらさらとしていた。
「…ここは?」
誰問うにでなく尋ねると、
「女の持つ秘密の花園ですわ」
と冷静にメイドの声がする。そして若いメイドに、
「もう少し、足をお開きなさい」
という。別の手が、シグルドの指を取り、
「こちらがこれからシグルドさまがお入りになるところ… その前にあるのが、女を淫らにさせる鍵のようなものですわ」
と、簡単にその構造を案内される。そうしている間にも、若いメイドは、のどで声を殺して、触れる指に反応している。
「…ひとつ聞くが」
「はい」
「女性は経験のないことが重要そうなことを言われて、実際、エスリンなど厳重に守られているようだが?」
「それは…エスリンさまは将来ノヴァさまの裔をお産みなさる大切なお体だからです。
 私どもについては、その配慮は無用です。シグルドさまのお教えするためにかねてより指示を受けているものたちですので」
メイドはそう応えて、
「その子の、『鍵』に触れてくださいませ、入り口への扉が開きますわ」
シグルドの指を、押し込むようにさせた。若いメイドは、
「ふぁ」
と、声を上げる。ぐり、ぐり、と、ふくらんでくるその鍵を撫で回すと、シグルドの耳元で、メイドの喘ぐ声が
「あ、ああ、…ぁ」
細く聞こえてくる。そして、その声が、なぜか自分に勢いを持たせるのだ。

 とろりと、何かが指に絡み付いてくる。それを尋ねると、
「それは、この子が、シグルド様をお迎えする準備が整ったしるしですわ」
そう言う返答が聞こえ、
「すべて私達でいたしましょうか、それとも?」
と尋ねられる。
「それとも、何だ?」
「世の男女がなさるようになさいますか?」
「よくわからないが…されっぱなしも癪だな」
「かしこまりました、起き上がりくださいまし」
起き上がると、今までシグルドが横になっていた場所に、例の若いメイドがすべる様に入り、仰向く。
「どうすればいい」
「その子の膝をお開きくださいませ」
膝に手をかけ、開くと、月がやや傾いて、わずかに明るさが増した部屋の中で、メイドの白
いからだがふわりと見え、開いた膝の奥は、少しかげっていた。
「ご自分でご確認くださいませ、入り口がございます」
手を差し入れ、どこにあるかと指を滑らせる。若いメイドは、それにさえ声を上げた。
「あった」
シグルドが小さく言う。
「ここに、入れるんだな」
「はい」
すでに、自分のものは、自分で制御できるか怪しいほどに緊張している。慎重に手を当てたまま、その入り口に自分をあてがい、腰を前に滑らせると、
「あ、ああああ…っ」
メイドの声が高くなった。
「いかがです?」
「熱い」
目がくらみそうになるのを、頭を振って正気を促しながら、シグルドは応える。
「…それに、押し出されそうだ」
「それに負けてはいけません、押し込んでくださいませ。
 押して、引いて…」
メイドに言われるまま、若いメイドの腰を引き寄せ、自分を押し込む。自分を受け入れてくれるメイドの手が、シグルドの腕にかかっていて、その握る力が、だんだん強くなってくる。
「は、あ、…ああ… んっ」
メイドの一人が、すっと動いた。若いメイドに耳打ちする。
「泣いてはいけません。望んで申し出たのでしょう?」
その耳打ちが、まったく聞こえない距離にいたわけでもない。
「…初めてなのか、彼女は」
動きをやめて、シグルドが尋ねた。
「お気になさらず」
「そんなことできない」
メイドは、ふう、とため息をついた。
「この子は、明日…いえ、もう今日になりますね、縁談があってお屋敷を出る子なのです。
 出る前に何か望むことはと聞いたら、この仕事に加わりたいと。
 迷ったのですが、折れたのです」
「本当か?」
若いメイドの顔の上に自分の顔を持ち上げて、シグルドが聞くと、彼女はこくん、と、それだけ頷いた。
「ですからシグルド様、もうお迷いにならず、最後まで、この子の望みをかなえて差し上げてくださいませ」
「…わかった」
一呼吸して、そのメイドをまた刺し貫く。
「くうっ」
メイドは声をころした。シグルドの肩にすがるように手を回し、
「ありがとう…ございます…勝手な、願いを」
「何も言うな」
とはいっても、相手の経験にあわせた手加減などわかるわけもなく、シグルドは闇雲に動くことしかできない。
 そのうち、脊髄に針を打たれたような感覚が走る。体の奥のあの場所から、貫き出ようとする衝動が走る。
「また…出るっ」
シグルドがうめく。メイドは何も助けなかった。腕の下の、切ない行く末を知らされた、名前も知らないメイドの中を、焼くように真っ直ぐに、二度目の精は放たれた。

 全部ことを終えて、ほかのメイドに支えられるようにして、か細くしゃくりあげながら部屋を出ていく彼女の声は、翌日目を覚ましたシグルドの記憶に、まだ残っていた。
 メイドの詰めている部屋を尋ね、今日出て行くメイドの居場所を尋ねたら、もう出て行ったと聞く。
 急いで馬を引き出して、かけてゆくシグルドの背中を、バイロンが見て、
「何ぞあったのか」
と、メイドに尋ね、
「なるほど…
 誰か、馬を。私も出る」

 彼女は、おそらくそれが実家への道なのだろう、街道をゆっくりと、歩いていた。
「…!」
呼び止めようとしたが、彼女の名前がわからない。先回って、彼女の前で馬を止める。
「シグルド様…」
「何も言わなくていい」
シグルドは、無造作に服の隠しから、何かを取り出した。
「母上の、形見のひとつだ。公爵邸への勤め、ご苦労だった」
小さなペンダントをひとつ。とっさに掴んだものが、これだけだった。
「…家への道は、遠いのか」
「いえ、さほど」
メイドだった少女は、シグルドの前を通り過ぎるように歩き、しばらくして、振り向き、背中が見えるほどの礼をした。

 屋敷に戻ろうと、馬を回頭させると、バイロンがいた。
「父上」
「何か、あったのかね、彼女と」
「身を削って屋敷に勤めた、その苦労をねぎらっただけです」
シグルドはそうこたえ、
「父上」
「何だね?」
「どうぞお戯れはこれきりに願います」
「これきりも何も、もう私はお前が何をしようと、関与はせんよ。
 これより先は、天からお前の言う『運命』とやらが落ちてくるのを、待つもいいだろう」
「そうさせてもらいます」
シグルドは馬に一鞭入れて、小さく見える公爵邸への道を、急がせるように戻っていった。

 「真の機微は手練手管の中にあらず」
バイロンは満足げに、蓄えた髭を撫で、
「私らは、ゆっくりかえろうか」
馬にそういった。

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