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人と騎士の合間に

夜の見回り…当然の仕事だ。例えかつては国に仕えし騎士であろうとも今はそうではない。
「うっ…くっ…」
「ん…?」
オルエン様の部屋だ…声を殺して泣いていらっしゃるのだろうか?

コン、コン…

「誰?」
やはり、起きていらしたのか…

ギィィ…ガチャ…

「失礼いたします…オルエン様、どうなされたのですか?」
マンスターへ攻め入る前日、我々レンスター解放軍は近隣の村に駐留していた。
私はその時、夜間の見回りを申し出、今に至っている。
オルエン様は寝台で、上体だけを起こされていらっしゃいました。
「フレッ…ド?」
「どうかなさいましたか?」
「何でもないわ…大丈夫よ」
兄君の、ラインハルト将軍の事だろうか…今、我々の所属している解放軍とフリージの近衛騎団であるゲルプリッターの戦いは熾烈を極め、我々が辛くも勝利したものの…オルエン様の兄上にあらせられるラインハルト将軍はオルエン様に敗北を喫し、自ら河に身を投じられた。
「ラインハルト将軍の事でしたら…」
「兄様の事は関係ない…関係ないわ」
「ですが…」
「放っておいて!」
「わかりました…ですが、何事もお一人で抱え込まないでください。私とてラインハルト将軍直々にオルエン様の副官を仰せつかった身ですから。では、失礼いたします」
(随分と意味のない…言葉だな)
オルエン様が仕官したての頃からラインハルト将軍直々の命を頂き、今の今まで忠を尽くしてきた。しかし、ラインハルト将軍がお亡くなりになられた今、私はオルエン様の副官ではない…いや、そもそもダンドラム要塞でフリージの軍籍を捨てた時からそうではないのだ…だが、私にも誓いを守るべき騎士としての誇りがある。
私は軽く会釈し、オルエン様の部屋を後にする為ドアを開ける。

ギィィ…

「待って…待って、フレッド」
「お話ししていただけますか…?」
「…少し…少しでいいから傍にいて…」
やはり、強がっても肉親の死には耐えられないのだろうか…それも、己の意志とのぶつかり合いで実の兄を殺してしまったことを。
オルエン様は寝台から起き、備え付けだった椅子に座る。私は傍らに立った。
「…フレッド…一ついいかしら?」
「はい」
「兄様が亡くなられた今、フレッドはどうして私を…?」
「申し訳ありませんが、それを申し上げるわけには参りません」
そうだ、この答えは答えるわけには行かない…私自身も当惑している現実なのだ。だから、答えるわけにはいかない…いや、答えられない。
「兄様が亡くなったのなら、貴方は私の副官ではないはずよ。私のような若輩者に貴方が悩む事なんて無いわ…そうでしょう?」
「オルエン様、お忘れですか?私がオルエン様の副官を仰せつかったときにラインハルト将軍とオルエン様の前で誓約した事を」
「あ…」
私はオルエン様に誓ったのだ。副官として、フリージに使える聖騎士としてその誇りにかけてオルエン様にお仕えすると。
「ご免なさい…本当に、ご免なさい…」
「お泣きにならないで下さい。オルエン様」
「でも…私のせいで…私の身勝手で貴方まで…」
「騎士は主君の正義に付き従う者です。オルエン様は兄君の死を無駄になさるおつもりですか?」
ラインハルト将軍はきっと解っておられたのだ、今のフリージが間違っていたと言うことを…だからこそ、オルエン様にイシュタル様から下賜なされた聖なる剣をお譲りになられたのだろう…だが、フリージに忠誠を誓う騎士として、敢えて戦うことを選ばれたのだ…最後まで、騎士であるために。そして、オルエン様を先に歩ませるために。
「今の私達の正義はレンスターの解放ではなく、子供達や民を救うことにあるはずです」
「わかっているわ…でも…」
「オルエン様、人も弓と同じです。いつも、気を張っていてはいつか切れてしまいます…一度は弛めてみては」
「止めて!…私に優しくしないで!」
震えている。あの気丈なオルエン様が、震えている…オルエン様は立ち上がり、私の軍服に縋り付くように私の胸に頭を沈めた。
「ご免なさい…でも…今だけ…今だけでいいから…胸を貸して…」
「…はい」
「ご免…なさい…本…当に…ご免…なさい…」
「オルエン様…」
私はオルエン様をしっかりと抱きしめた…。
「う…う…」
「…」
私は何も言えない…何も言えなかった。今まで、ずっとオルエン様の副官として補佐をしてきたがいつであろうとも、あのダンドラムの時であろうとも決して弱音を吐くことの無かったオルエン様が…肩を振るわせて泣いている。
私は何もできない自分が何故か悔しかった。

しばらくそのまま、で、オルエン様が泣きやむと、私は抱きしめていた腕をといた…。
「オルエン様…もう、大丈夫ですか?」
「…ええ、ありがとう」
「いえ、これも、家臣の務めですから。では、失礼します」
「あ…」

ギィィ…バタン…

家臣…か。既に仕えるべき主ではなくなっているというのに、何故家臣などと言ってしまったのだろう…何処かで私はそれを理由に何かから逃げている様な気がする。
そうでなければ、何故、部屋から出るときのオルエン様の言葉が気になるのだろう…
いや、今はそれよりも、見回りをすませなければ…

宿を抜け、野営の中心である広場へ戻る。
そこには吟遊詩人のホメロスがいた。
「まだ、起きていたのか」
「どうせ、俺は明日は待機だ。それにお前には関係ないだろ」
この男は私やオルエン様を少し、遠巻きにしている感がある。理由は解らないが…そんな時、ホメロスから口を開いた。
「…これで最後だから言っとくが、俺はお前等が許せねぇ」
「何?」
ホメロスは再び押し黙る…私達を許せない?どういう…事だ?
「何故だ?」
「お前等には直接関係ない事かも知れないがな…それでも俺はお前等を許せねぇ」
普段の軽い態度からは全く想像もできない淡々と語るホメロスの口調は、何処かに強い含みのある言葉だった。私とオルエン様に向けていた冷たい視線の正体はそこにある。
「お前、マンスターで行われた反乱軍狩りくらいは聞いたことあるだろ?」
…私は知っている。マンスターの反乱分子狩り…それがどれほど凄惨で酷たらしかったかすらも…あの時、私はラインハルト将軍直属の騎士見習いとして従軍していたのだから…
「俺はあの時…丁度家を捨てた時だった…驚いたぜ?家を捨てて吟遊詩人になった直後に故郷が粛正にあったなんて話を聞いたからな…」
「…」
「急いで出戻って生き残った人に聞いてみたらどうだ?関係ない奴らまで見せしめに殺すのがフリージの…誇り高き魔法騎士団ゲルプリッターのやり方だってか?」
まさか…あの時の指揮はレイドリックが執っていたはずだ…ラインハルト将軍は…そんな方ではない!
「ラインハルト将軍がそんな事をなさるわけ…」
「あるんだよ!生き残った奴らに聞いてみりゃあ、間接的に指揮を執っていたそうじゃないか…お前の仕えてたラインハルト将軍は!」
「だとしても、あれはレイドリックの独断だ!」
「ふざけるな!そんなことが言い訳になるとでも思ってんのか!?独断だったとしてもそれはいくらでも止められた筈だろ!それを止められなかったのは間違いなくお前等の責任だ!あの後のマンスターがどれだけ酷いことになってたかわかるってのか!?」
何も言い返せない…言い返せる訳がない。ゲルプリッターはあの時、ほとんど動かなかった。ただ、レイドリックが好き勝手に振る舞っていたのだから…
「悪政を挫いて護るべき民がいての騎士だろうが!例え主君に仕えていようが、悪政を引くヤツには進言しなけりゃいけないだろうが!それを忘れた騎士団なんざ、騎士なんて名乗る資格はねぇ!」
「なぜ…そこまで拘る?なぜ…そこまで騎士の在り方を…正道を説ける?」
ホメロスが再び押し黙る…だが、再び口を開いた。
「俺の親父は…騎士だった。マンスターに仕えてる騎士だった…大した階級じゃなかったが…親父に定められた通りに親父の跡を継ぐなんてまっぴらだ…俺は親父の物じゃねぇ
…そういってマンスターを飛び出した…その結果が今だ。人に聞けば、最後まであのボケ領主に騎士の在り方を、領主の在り方を説いてたそうだぜ…馬鹿な親父だよ…」
「貴様は…!」
「でもな、そんな親父だったからこそなんだよ…お前等みたいなヤツを見てると腹が立つんだよ…騎士の在り方に気付かないでのうのうと迷って道を模索していたようなヤツは!俺には力がねぇ…本当に只の吟遊詩人だ…昔とは違う…本当はレイドリックのヤツにも一太刀でいいから浴びせてやりたいのによ…」
何か変だ…私達を許せないという割には…
「ならば、リーフ王子に言えばいいだろう!」
「駄目なんだよ…持ちたくてもよ…手が震えちまうんだよ…親父が何のために馬鹿正直に生きてたのか思い出したときから…俺は剣が持てなくなっちまったんだよ」
「…何?」
「親父の遺言を聞いた時からな…俺は弱いんだよ…本当は大して戦えもしない吟遊詩人になりはてちまったんだ…只の臆病者に…畜生…」
悔しいのは自分が弱い人間だと気がついてしまった時だ…それを無駄にできない時、人は強くも弱くもなれる。心も体も…だ。
「そうか…済まなかった」
「いや、俺の方が悪かったんだ…お前達のせいじゃねぇ…そう割り切ってたはずだったんだがな…俺はお前が思っている以上なんてもんじゃなく…弱いんだろ」
「人の遺志を無駄にできない者は強い者だ…私はそう思う」
「気休めか?」
「違う。私から見ればお前は私よりも強い…私とは違う」
そうだ。私は遺志を継げない…寄る辺を何処かで求め、騎士になってしまったんだろう…
民を護ることは他の事であってもできたはずなのだから…ただ、それは自分を正当化しようとしていただけだ…自分の信じている道がないのだ…私には。
信念を持たない騎士など…何の役に立つのだろう…
「自分が信じられないから、他人に委ねる。それは違う…自分の信じた道こそが正道だと言えるのが騎士だ…私には騎士である資格はない」
「そうでもないぜ…だとしたら、オルエンの見間違いか?」
「何?」
「アイツはお前を信じてる。自分を支えてくれるヤツだと、騎士としてみてる…それに」
「オルエン様が…?それになんだと言うんだ…私が」
「自分で確かめろよ…無意識のうちだと思うんだけどな。あの手のヤツはよくみてきたからな…俺にゃわかる。じゃーな、俺はもう寝る」
重い空気が一変して軽くなった。いつものホメロスに戻ったからだろう…
その日の夜回りが終わり、ホメロスの言葉が気になった私は再びオルエン様の部屋へ出向く事にした。

私がオルエン様にとってなんだと言うのだろう…この私に何かを求められているというのだろうか?

コン、コン…

「オルエン様…起きていらっしゃいますか?」
返事がない。おそらく、もうお眠りになられたのだろうか?
だとすれば、無理に起こすわけにも行かない。
私も宿舎に戻ろうか…
「フレッド?」
「起きておられましたか…」
「どうしたの?」
「いえ、少しお話があるのですが…宜しいでしょうか?」

ガチャ…

寝間着を着たままのオルエン様がドアを開ける。
中に招かれ、先程とは違い、オルエン様の座った席の対面に座る。
「どうしたの?」
「単刀直入に申し上げます。私は…これ以上オルエン様の副官につけません」
「…っ!どうして?」
ホメロスの生い立ちを聞き、考えた。オルエン様はラインハルト将軍の死も乗り越えようとなさっている…それに比べ、私はどうだ?ラインハルト将軍の死すらもそれほどショックを受けず、のうのうと生きている私は一体…何のために此処にいるのだ?
「オルエン様は本当に強くなられました…もう、私の支えなど必要ないでしょう」
「…」
「ホメロスから、彼の生い立ちについて聞きました…彼がどうして私達を遠ざけていたかも…私は何も言い返せませんでした」
「それとこれは何か関係が…」
「私はもしかすると、解放軍の中でもっとも弱いのかもしれません…それから強くなられたオルエン様に、これをお渡しせねばなりません」
私は、腰につり下げていた雷の剣を外すと、私は卓の上にそれを置いた。
「これは貴方の家に伝わる雷の剣…どうして?私の副官を辞めたいのなら最初から説明して…」
「本来ならばフリージの軍籍を離れた時点で私はオルエン様の副官を解任されております」
灯の明かりに照らされるオルエン様の表情が強張る。
私自身、それを薄々気付いていたが、本当にそれもこんな形で口に出さねばならない事を深く後悔していた。自分の弱さに気付かねば、何も変わらなかったというのに…
「先刻述べたことと矛盾しておりますが…ラインハルト将軍との約定の事もございます」
「兄様との…約定?」
「私がオルエン様にお仕えするのは、私から見てもオルエン様が一人前の騎士になるまでとラインハルト将軍との約定だったのです…オルエン様が一人前になられたのなら私はオルエン様の副官を辞し、ラインハルト将軍の元に戻らねばならなかったはずなのです」
「でも…もう兄様は…!」
そう、オルエン様の言う事も事実だ。もうラインハルト将軍は亡い。そして、フリージの軍籍を一度だろうと離れた私をブルーム王は許さないだろう。
騎士として、約束を守らなければならない。だが、守らねばならない義務も既にない。
「オルエン様が一人前になり、そして果たすべき目的も見つけなられた今、私がこの場にとどまる理由が無くなったのは自明の理でしょう」
「…駄目よ…絶対」
「これで、私は失礼します。お休みなさいませ…」
私は席を立ち上がり、部屋を後にしようとする。私の成すべき事はこれでもう無い。騎士としての資格を失った私が此処にいる理由は何処にもなくなった。生きている理由すらも。
「駄目っ!」
ドアノブに手をかけたとき、オルエン様が私の背中に縋り付いた。
「絶対に…駄目…」
「わがままを言わないでください」
「駄目よ…貴方までいなくなってしまったら…私はどうすればいいの?」
酷く弱々しい声。今まで、それに先刻すらもこれほど弱々しい声ではなかった。
「フレッド…教えて…私はどう…すればいいの…?」
何故、私に縋るのだろう…私が何の役に立つのだろう…
「兄様がいなくなって、貴方までいなくなるのは…私には…」
聞いては駄目だ…啜り泣くオルエン様の言葉を聞いては…
「私には耐えられない!どうして!?フレッド…傍にいて…お願いだから…傍にいて…」
…………………。
「…っ!?」
抑えられなかった。自分の身を焦がす熱情を。ただ、突然、強くオルエン様を抱きしめていた。先刻の慰める時のような優しい抱擁ではなく、感情が高ぶった時の怒りにも似た抱擁…そう、何も考えられない。ただ、オルエン様を抱きしめていたい。それだけが、今の私を支配していた。
「フレ…ッド?」
「…何も言わないでください…」
「…傍にいて…何処にも行かないで…」
「私は…オルエン様のお役に立てません…」
腕の力を抜く…抱擁を解き、オルエン様の肩に手を置く。
「お願いよ…傍にいてよ…」
「ですが…私は」
「一緒にいてよ…何処にも行かないでよ…」
こんな私でも、役に立てるのだろうか…?オルエン様の役に立てるのだろうか?
「一緒に戦ってなんて言わない…私の為に何かしてなんて言わない…ただ、傍にいてよ」
「オルエン様…お聞きして宜しいですか?」
「…一緒に、居てくれるの?」
例え、なんと罵られてもいい。だが、もう抑えられない。
「オルエン様にとって、私はどのような立場にいるのですか?ただの副官ですか?」
「…!どうして、そんな事を…聞くの?」
「私は…オルエン様の事を愛しています。だからこそ、私は貴女の枷になりたくはありません…答えてください…オルエン様にとって私は何なのですか?」
「…っ!」
そうだ…今までもずっとオルエン様の事を想ってきた。私自身の安全よりもオルエン様の事の方が心配だった…だが、今の私はオルエン様の枷にしかならないだろう…ならば、オルエン様の事を想うならば、尚更、私はいない方がいいはずだ。それに気付きながら、私は何もいえなかった。
「卑怯よ…フレッド…」
「確かに卑怯かもしれません。ですが、私はこれからのオルエン様の枷にだけはなりたくありません…オルエン様には御自分の信じた道を歩んでいただきたいのです」
「わからない…でも、私の事を想うなら…傍にいて…私を支えて…」
突然、オルエン様の唇が、私の唇と触れた…。そして、唇を離すと躊躇の吐息を漏らす。
「…私を…奪って…」
「…わかりました」
私はオルエン様を抱き寄せると、これ以上そんな物悲しい事を言わせないようにキスをした…。

寝台まで私はオルエン様を抱いて運び、横たわらせる。
「…本当に、いいのですね?」
「…ええ」
私は仰向けになったオルエン様の寝間着のボタンを外してゆく…。
暗い闇夜の中で、オルエン様が身を強張らせるのがわかる。
「もっと、力を抜いてください」
「…」
オルエン様は何も言わず、ただ少しこくんと頷くと、強張っていた身体を少しずつ抜いていく…そして、私はオルエン様の寝間着のボタンを全て外すと、服を少し荒々しくはだけさせた。小さいが形の良い白い乳房が私の前に露わになった。
オルエン様は羞恥に耐えかね、両の手の平で顔を覆う。
私は露わになったオルエン様の乳房にそっと手を乗せ、少し揉みしだく。それに反応するようにオルエン様の身は少し震えている。
「オルエン様…手を、どけてください」
「…」
オルエン様が手を顔から外す…その卓におかれた灯に照らされる表情は、怯えていた。
少しでもいい。ただ私はその怯えを取り除きたいと思い、優しくキスをする。
「…っん…はぁ…はぁ」
唇を離すと、オルエン様が少し苦しそうな息を吐く。
私は、そんなオルエン様の上体を左手で抱え上げ、再び唇を重ねた。先程よりも優しく。
「…フレ…ッド」
オルエン様が私の名を呼ぶ。いつもは強い意志を秘めた瞳に涙が少し浮かんでいる。
「…泣かないで下さい」
左手で抱え上げたまま、開いている右手で涙を拭う。
その時、なすがままだったオルエン様が私の首筋に手を回す。そして、オルエン様の方から私にキスをする。そして…
「傍にいて…私を支えて…私を…離さないで…」
「…大丈夫です。私は…オルエン様を決して見放しはしません」
哀願するオルエン様に私は例え離れることになろうとも、私はオルエン様を見捨てはしません…そう、言った。それでも、オルエン様は首を横に振られた。
「嫌…。私はフレッドがいないと駄目なの…絶対に、離れないで…」
私はそれ以上何も答えなかった。再び、オルエン様を横たわらせるとその乳房に手を重ね、優しく揉む。私の手の中でオルエン様の乳房は淫らに妖しく形を変えている。私は顔を乳房に近づけると、舌でオルエン様の乳首を愛撫し始める。
何故、私を求めるのだろう…いっそ、嫌ってくれればいいものを、どうして力のない私に縋るのだろう…。
そう考えながらも、私は手を止めない。オルエン様の胸の先端を弾き、つまみ、いじり、弄ぶ。そんな中でも、「いっそ嫌ってくれれば」という思いが強くなってくる。
それでも、オルエン様は何も言わず行為を受け入れている。
何故、無理をなさっているのかわからない。
「ん…んぅ…」
指をくわえ、込み上がる何かを堪えるような声…私にはそれが、自我を保つための…慣れない快楽に抗うための行為だという事がわかった。
ただ、相変わらず何故そこまでなさるのかわからない…何のためにそこまでなさるのか。
私は愛撫していた手を止め、オルエン様の寝間着のズボンを膝の辺りまで押し下げる。
オルエン様の白い肌が薄灯に浮かぶその様は、私にとって何処か背徳的な物を彷彿とさせていた。その呵責が大きさを増す…しかし…私はそのまま下着ごしにオルエン様の秘部を撫で回すと、そこは既に湿り気を帯びていた。
私は何も言わず、秘部の上をなぞるように指を這わせる。オルエン様が少し驚いたようにビクッと足を閉じたが、思い出したかのように再び足を開く。
わからない事実は一つしかないのにその答えは開間も見えない…いや、見えているが見ていないのかもしれない…あり得ないと否定しているのかもしれない。
そう考えながら、胸の先端を啄み、下着の中へ手を入れ、愛撫を続ける。
クチュ、クチュと淫靡な音が聞こえる。手の甲に触れる下着も、少し湿っているのがわかる。悩みを持たねば、きっと、私の理性などとうに吹き飛んでいるだろう…
「くぅ…ふぅ…」
オルエン様の切なさそうな吐息。そうだ…私は何をしているのだ?
取り返しのつかない事をしているのではないのか…その思いが肥大しはじめる。だから私は…その手を止めた…。
「はぁ…はぁ…」
「私は…何故こんな事を…」
「フレ…ッド…?」
「私は…何故こんな事をしているのだ…?」
わからない…わからない…わからない…何も考えられない…頭の中に靄がかかったりしているわけではない…だが、何も答えは出なかった。自分が自分でないように…身体も自分の思うとおりに動いているはずなのに…まるで自分の身体でないような…。
後悔…?何故後悔している…?何処かで望んでいたはずだ…こうなる事を…。
だが、それは本当に私の願望なのか?わからない…。そもそも私は何故…。
壊れた蓄音機のように「わからない」と連呼しているのが聞こえる。だが、誰がわからないと言っているのだろう?
「フレッド…?」
寝台で半裸のまま仰向けになっているオルエン様が私を見ている…。私の名を呼んでいる。何故、私を呼ぶのだろう。
「…わた…しは…」
「フレッド…」
「わた…しは…!」
何も、考えられない。ただ、何もわからないまま、自分の身体を爪が自分の肌に食い込むほど抱き、ガタガタと震え、嘆き叫ぶ…。私は何を恐れている?何に怯えている…?視界が霞み、何かが頬を伝う。…涙?私の涙なのか?何故、何を悲しむ…?
嘆き…?…何を嘆く?私は何を求めている?何かが手に入らないことを嘆いているのか?何をだ?何を望んでいるのだ…?
「オル…エン…様…?」
「フレッド…駄目…自分を見失わないで」
「自分…を…み…うしな…う?」
私が自失している?そんな事は…ない?自分を見失っていない?それは…正しいことなのか?私は…。
「私を、愛してくれていたフレッドは…私を導いてくれた」
「私が…オルエン様を…導いた…?」
オルエン様が起きあがり、私の頭を自分の胸に抱くように抱きしめた。オルエン様の体温が直に私に伝わる…。
「私一人では何も出来ないの…だから…貴男が貴男でいて…傍にいて…私を愛していて」
「オルエン様を…愛…する」
そうだ、私はオルエン様を愛していたはずだ…そうだ…
ゆっくりと、オルエン様が私の頭を離し、私の瞳を見つめている。
思い出した…私はオルエン様を補佐するために…否、守るために自らラインハルト将軍に申し出たのだ…彼女を傷付けないために。
ずっと、忘れていた…自分が自分であることを。
「オルエン様…」
「フレッド…大丈夫なの…?」
「見苦しいところをお見せしてしまいました…オルエン様、全てをお話しします…なぜ、私がオルエン様の副官となったのかを」
「もう、そんな事はどうでもいいの。フレッドが私を愛してくれて、私はフレッドを愛しています…それで、十分なの」
彼女がゆっくりと瞳を閉じる。私もそれに応じるように優しく唇を重ねた。
私も上着を脱ぎ、寝台に腰掛け壁に背を預ける。そして、半裸のままの彼女を背後から抱きかかえるように座らせた。
そして、左手で右の乳房を、右手で彼女の秘部を下着の上から愛撫する。彼女の手を私の腕で拘束し、露わになっている肩を舌で這うように舐める。
「…んぁっ…くふぅ…」
指先で秘所を愛撫しているうちに、彼女の喘ぐ声が少しずつ大きくなっていくのが判る。
私は愛撫する手を止め、彼女の下着に手をかけた。
「自分で…脱ぐから…」
私は、彼女の拘束を解く。彼女は自分で下着を脱ぎ、私の方に向き直る。
そして、再び唇を重ねた。そのまま、彼女を押し倒すようにベッドに横たわらせる。
そこで私もまた、彼女と同じように全ての服を脱いだ。
互いの肌の温もりが直接伝わる。ありのままの互いを確認し、私は横たわった彼女と再びキスをする。何度も、何度も緊張を解きほぐすように唇を重ねる。
「ん…ふぅ…フレッド…」
彼女の秘部を直接指でなぞる…そこは既に私の陰茎を迎えるには十分過ぎるほど濡れそぼっていた。しかし、私は彼女の最も敏感な部分を指で捏ね繰り回す。
「や…そこ…は…」
軽くつまんだりしてみると、その度に彼女の体がビクッと跳ねる。そのまま、私は愛撫を続けると、突如彼女は私の首にしがみついた。
「な…何か…来るぅ…あ…あぁぁぁっ!」
彼女の体がビクビクッと痙攣し、その後でくたっと力が抜けたように私に彼女は腕の力を抜いた。
「気持ちよかったですか?」
「…わからない…でも…」
彼女の頬は薄い蝋燭の灯りでもはっきりとわかるほど朱く染まっている。
息が荒くなっている彼女の上体を私はそっと抱き寄せると、息遣いが元に戻るまでそのまま優しく抱いていた。彼女は気持ちよさそうに私にもたれかかっている。
これは…夢ではない現実。それを確認するように、私は彼女と唇を重ねる。
もう、何度目のキスだろう。だが、彼女のこの温もりが、私に全て現実だと教えてくれている。紛れも無い現実が嬉しかった。
「ねぇ、フレッド…」
「はい」
「フレッドの…その、気持ちいい場所って…」
彼女の言葉に私は驚いた。ついこの間まで子供だと思っていた彼女の突然の言葉に。
「そ、それは…」
「私だって少しくらい…夜伽の知識くらい…」
あるわ…といったその当たりは声が小さくなっていた。私もそれは聞き流した。
「ですが…」
「大丈夫だから…」
そう言うと、彼女は私の強張りにおずおずと両手で触れる。
「…こう?」
そう言い、彼女は手で私の強張りを擦り始めた。慣れない手つきだが、その手の温もりが私の強張りを更に、いきりたたせて行く。
そして、私は達してしまう寸前で彼女を再び横たわらせた。
「怖いですか?」
「少しだけ…」
その言葉が嘘である事はすぐにわかった。その体が震えている。私は再び彼女とキスをし、緊張を解きほぐす。
そして、既に濡れている彼女の秘部へ自分のものをあてがうと、少しずつ、ゆっくりと体を沈めていく。
濡れているとはいえ、一度も男を迎え入れた事の無いそこは強く私のものを締め付けてくる。それだけで達してしまいそうになるが、更に体を沈めていく。
「…大丈夫ですか?もっと、力を抜いてください」
「…大丈夫…すこし、痛いけど」
嘘…今まで彼女を気丈に見せてきたベール。そのベールはほとんど剥がれているが、少しだけ残っている。私はその嘘を信じ、ゆっくりとまた体を沈めた。
グチィッという音と共に彼女の処女の証を突き破った。そのまま、私は根元まで自分のものを彼女の奥まで沈み込ませる。
結合部から破瓜の血が淫蜜と共に流れ出していた。
「はぁ…はぁ…」
私は自分のものを彼女の中に沈み込ませたまま動かずにいた。彼女の表情はまだ痛みに耐えている。目じりには少しだけ、涙も溜まっていた。
「痛いですか?」
「…痛いわ…でも…嬉しいの」
素直に痛いといった彼女の顔には微笑が浮かんでいる。だが、痛みをこらえているのはすぐにわかる程だった。私はそのまま彼女の中に自分を埋もれさせている。
「…どうしてですか?」
「わからない…でも嬉しいの」
私は彼女の目じりに浮かんでいる涙を指で拭った。そして、キスをする。
「ん…」
その長いキスを話したとき、彼女のほうから口を開いた。
「動いても…いいわ」
「痛かったら…」
彼女の指が私の唇にそっと触れた。私は無言で、ゆっくりと注送をはじめる。
ゆっくりであってもクチュ、クチュという音が聞こえる。彼女はそれを聞いて顔を赤く染めていた。
「ん…ふぅ…はぁ…」
結合部からの淫蜜と破瓜の血で滑りがよくなってきている。彼女の中は私のものに絡みつくような感覚を与えてくれる。そこで、だんだんと私は注送の速度を上げていく。
「あぁん…ふぁ…あぁ…」
グチュ、グチュという淫らな淫蜜の音と肉と肉のぶつかる音、そして彼女の喘ぎ声が部屋を支配する。彼女の声も痛みよりも快楽の嬌声が混じってきている。突然、彼女の中の締め付けが強くなった。
「駄目、また来る…あっ、あぁぁぁぁっ!」
「くっ!」
その声と共に彼女の体は先ほどと同じように痙攣し、果てた。私もまた彼女の中に自分の中の欲望を吐き出していた。
「あ…フレッドのが入ってくる…」
「すみません…」
「謝らないで…ね」
彼女は自分から上体を起こすと私の首に腕を回し、唇を重ねた。結合部からは白濁液が少しだけ溢れている。
「これで身篭ったら絶対に責任、とってよね…」
「ええ。そうでなくても、そのつもりです。約束ですから…」
そして、私たちはそのまま眠りについた。

5年後…

今の私たちはフリージ城の一角で職務を果たしている。その内容は、孤児の世話だ。
戦後、イシュタル公女とティニー公女の元で私たちはその仕事を申し出た。
まだ、子供は生まれていない。だが…

「もう、様付けはいらないっていったでしょう」
オルエンが私の前で苦笑している。
「ですが、少なくともここではそう呼びませんと…わかったよ」
オルエンの目尻に少しだけ涙が浮かぶ。どうも、これには弱い。
「でも、せっかく近衛騎士になれたのに、よかったの?」
「ああ、もうそんなものは必要ないだろう。それに…」
一息。
「私は君の騎士だ。あのときの約束を守っているだけだよ」
「呆れた…でも、嬉しいわ」
オルエンの微笑み。私はこの微笑みを守りたかった。だから…
絶対に彼女の微笑みを絶やさないように…失わないように…

Fin...

・本人のコメント・
@今回やってみたかった事(爆)
個人的に今回のテーマは矛盾。
特に、フレッドを壊したかったというテーマです。(挑戦かい!?)
いや〜、生真面目そうなので。

・清原のコメント・
最近ハンドルをかえられたらしいのですが、
それまでの預かりものの関係もあって裏専用ということで。
最初にごめんなさい…トラキアはクリアしてません(脱兎)
某から「オルエンとフレッドは例えるなら聖戦のアレみたいなもんじゃ」と
注釈をいただいたので、そのようによんでみました。
オルエンちゃん…かわいい。フレッド…かっこいい(謎)
神狩さんのはただ行為だけですまさない、ちゃんとメッセージこもっている所と
男がおしなべて紳士的というところを評価しております。(^^)
またよろしくおねがいしますね〜


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