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「全てに酔う一夜」

 とある王国の第一王女、エルナは、その美貌と聡明さ故、幼いころから周囲の国や貴族から求婚が後を絶たなかった。
 しかし、ある程度心の読める王女は、求婚者の欲望ばかりが見えてしまい、求婚をはねつけるばかりでなく、それが元で危うく気鬱の病になりかけた。
 そんな中、気散じのために城下に散歩にでた王女は、身分を隠していたが故にならず者達に襲われる。
 ふだんは「剣の王女」と称されていたエルナ王女も、剣も帯びず、一人では数人の若者抗する術を持たない。
 危うく落花狼藉となる所、一人の少年の剣によって救い出される。
 その少年の名はロータスと言った。
 落ち着くためにカフェに入った二人は、身分以外の事を色々話し合う。
 たちまち意気投合した二人は、その日は遅くまで城下を歩き、そして、別れの際は、再会を約して、エルナがロータスの頬に接吻を賜った。
 次の日、隣国の使節を引見した際、エルナはそこで驚愕する。
 使者の第3王子こそ、そのロータスであった。
 エルナがロータスと結ばれるには、さほど時間は掛からなかった……。

 その日、ロータスは酔っていた。
 普段は酒に弱い彼も、この日ばかりは飲まないわけには行かなかった。
 彼の親戚一同での祝い事での主賓となった彼は、祝杯を受け、途中で酔いつぶれた為、介抱を受けたのである。
 今は持ち直して、自分の部屋に戻ったところであった。
 自分の部屋、すなわち、この国の王女で相思相愛の中の人、エルナの部屋に……。
 エルナはそのころ、書類整理をしていた。
 一国の王女でもあり、程なくして第三大臣の称号も受け、行政の一翼もになう彼女故、回ってくる書類も多い。
 それだけ、彼女が有能な証である。
 彼女自身は、書類を整理しながら、ロータスの帰りを待っていた。
 どんな時でも、どんな場所でも、そして自分がどうなっても、傍にいてくれると言った彼。
 身も心も自分のためにと言って、必ずそうしてきてくれた彼。
 一時期最早、最悪なことしか考えられなくなっていた彼女の心を解かし、今やっと振る舞っていられるぐらいに回復させてくれた彼に対して出来ること、笑顔で迎えることのために、彼女は起きていた……。

 ロータスが部屋に入っていたのは、その書類整理をしていたころであった。
 丁度、書類整理にも身が入っていたので、ドアの音が耳に入らなかったらしく、ロータスが戻ったことに気がついてなかった。
 机上の蝋燭に照らされた、彼女の横顔が目に入ったときに、ロータスの鼓動が跳ね上がる。
 その幻想的な美しさに。
 その、仕事に向かう凛々しさに。
 普段のロータスでは起こりえない、情欲の炎が、蝋燭の灯火みたく灯ったかと思うと、たちまち全神経が灼かれる。
 アルコールも、手伝っていたのかも知れない……。
 背後に忍び寄り、エルナの座っている椅子の後ろに回ると、首を伸ばして、エルナの頬に、唇を触れさせる。
 「…………!!!!」
 驚きと、いきなりの唇の感触に、たちまち真っ赤になるエルナ。
 その恥じらいの表情に、さらにそそられたロータス。
 「……可愛い……」
 漏れる一言にエルナの顔がさらに赤くなる。
 そんなエルナに、さらにロータスは唇の雨を降らせ、赤い花を咲かせていく。
 頬、額、首筋、そして唇に。
 真紅に頬を染めるエルナを、椅子から立たせ、抱きしめる。
 「……可愛いな……」
 真っ赤になって何も言えないエルナを今度は後ろから抱きしめ、そして服の上から胸を柔らかく掴み占める。
 「あ…………あっ…………」
 思わず身じろぎするエルナ。
 そこに、さらに身じろぎさせるような言葉を投げかけるロータス。
 「……柔らかいね……」
 思わず言葉を失うエルナ。
 本人に自覚はないものの、さらに追い打ちを掛ける。
 「その可愛くて、赤く照れた顔、もっと見せて……」
 「ふぇ、あの、えと…………」
 「だめ? エルナ……」
 普段は決して出ない、敬称抜きの想い人の名前。
積極的なロータスに翻弄されるエルナ。
 さらに、耳たぶを甘噛みされて、身じろぎしながら思考が中断されていく。
「あの、えと………」
 「大好きだよ、エルナ……」
 慌てるエルナの顔に、被さるように、ロータスが舌を絡める。
 「ん…………!」
 一度目を閉じてゆだねようとしたが、何とか一旦離そうと悶える。
 不審に思ったロータスが一旦離れて声を掛ける。
 「どうしたの……?」
 「……だって、まだ……」
 「まだ?」
 「……仕事……終わって、ないし……」
 生真面目なエルナの言い分。
 しかし、ロータスはその下に隠れていた不満を暴いていた。
 「書類を書いてるときに、眉間にかげりが。エルナの信号ですよ、そろそろまた澱がたまってきたのかと、ね」
 「え、えと……」
 「僕も……手伝います……仰ってくれば、いくらでも」
 「でも、えと…もうすぐ、終わるから……大丈夫……明日、早いんでしょう? お酒、飲んだなら、早く、休まなきゃ……」
 言葉を封じられてさらに慌てるエルナ。
 そこに追い打ちを掛けるかのようにロータスが言葉を紡ぐ。
 「大丈夫……そんなに、飲んじゃいないですから……それとも……だめ、ですか? エルナ……」
 視線と敬称抜きの言葉の、ダブル・インパクト。
 エルナの顔がまたもや真紅に染まり、動きが止まる。
 それと見たロータスが、軽々とエルナの身体を抱き上げ、両腕で捧げ持つ。
 「少しぐらい、休まれても、誰も文句言いませんよ、エルナ……」
 反射的に暴れそうになったが、思い人の絶妙な抱き具合と、それと匂いに絡め取られ、動けなくなる。
 そして、二人がいつも眠る寝台に運ばれ、少し跳ねるように降ろされる。
 「きゃ」
 少し悲鳴を上げ、思わずしがみつくエルナ、その耳元に、ロータスがとどめの一言を掛ける。
 「だから、今は僕だけを見て……僕だけのエルナ……」
 真っ赤になったエルナが、少し見つめたかと思うと、顔を伏せるようにして腕を、背に回し、しがみつく。
 そんな彼女の形のいいあごや、首筋に唇を落としながら、ロータスは呟いた。
 「幸せです……僕は……エルナと巡り会えて……」
 抱きしめ返して、もう一度、唇を合わせ、舌を絡めた……。

 「そ、そんな……恥ずかしい……」
 ふと自分の姿が目に入ったエルナが、絶句しながら声を上げる。
 今のエルナの格好は、到底、この空間でしか見られない状態だったからだ。
 「全部脱ぐと……それだけで時間が過ぎますよ……」
 ロータスの言葉が耳朶を打つ。
 今の格好にしたのは、さっきの数分前。
 自分で脱ごうとするエルナの手を押しとどめ、ブラウスのボタンを外し、胸を覆う下着を開放し、形のいい白磁の双丘をさらけ出す。
 そして、スカートを太股の当たりまでたくし上げ、さらに腰を覆う下着を開放し、普段は誰の目にも映らない部分を、今ロータスのためだけにさらけ出す。
 身体を覆う服が、今は、何の役にも立たなかった。
 「僕にとっては……今も、普段も……眩しすぎます、でも、今はもっと、エルナを貪りたい……愛したい……」
 うわごとのように述べながら、露出しているエルナの身体を愛撫する。
 白磁の双丘の頂点につく、桜色の突起。
 それを口に含み、舐り、転がす。
 手はもう一つの突起を転がしながら、ゆっくり、優しく揉みし抱く。
 そして、空いてる手はエルナの桜貝のような唇を撫でる。
 「……どうぞ……」
 「ん……」
 一見意味不明なロータスの一言。
 だが、エルナは、うなされるように上気した瞳をロータスの指を見つめ、唇に含む。
 ロータスが酔う様に、エルナも今の状況に酔ったかのように、唇を撫でてくれた指に、お礼をするかのように、丹念に指を舐る。
 それを満足そうに見たロータスは、今度は顔を下の方に向け、スカートや下着に厳重に包まれていた、エルナの身体の深奥に寄せる。
「あ…………」
 普段見られることのない場所に、熱い視線を向けられて、思わず身体中を熱くするエルナ。
 そんな彼女を愛おしく見つめ、両太股の奥にある、鮮紅色の花弁に、唇を触れさせる。
 ピチャ……クチュ……
 「ひあっっ!!」
 新たな刺激に、思わず声を出す。
 その声にも刺激されたロータスは、花弁にある紅玉、花弁の奥から涌く蜜、そしてその下にあるくすんだ場所と……ロータスにしか見ることの許されない場所を、丹念に、丹念に舌で愛撫する。
 「エルナの……味がします……甘い……味です……さらに、酔いそうです……」
 「そんな、こと、いわな……っ……あはあっ!!」
 きゅ、と目を閉じ恥ずかしさに耐える。
 しかし、奥底から涌いて出る快感に、思わず嬌声が上がる。
 その声は、確実にロータスの脳髄を灼く。
 「可愛いです、エルナ……」
 「そんなぁ…………こま、らせ、ないで……」
 声を聞く度に、エルナから蜜があふれ出す。
 その蜜をロータスが舐め取るたびに、今度は、二人に快楽の波が走る。
 最早たまらなくなったロータスは、ズボンを引き下げ、熱く脈打つ自らの塊を、エルナの深奥の入り口に押し当てる。
 「いい……です、か?」
 「……は、い……」
 さすがに気恥ずかしいのか、言葉少なになる二人。
 しかし、今日のロータスは、酒に酔い、雰囲気に酔っていたため、いきなり普段ではしない行動にでた。
 「え…………きゃあっ!!」
 エルナが驚いたような嬌声を上げる。
 それもその筈、ロータスがエルナをうつぶせにし、後ろから抱きしめる。
腰を引き上げたため、エルナが両手両膝の四つんばいの姿勢になる。
 そしてそのまま、エルナの熱く濡れた深奥に熱い塊を押し当て、一つになる。
 態勢から言えば、そう、獣が後ろから雌に覆い被さるのと同じように
 グチュッ…………!
 「あうっ!! あ、あああああああああああ……はぅっ!! うううう……」
 「う、うあ……あ、熱い……」
 身体の奥底で、炎が燃え上がるような感触に、尾を引く、一際高い嬌声を上げるエルナ。
 声を上げながらも、腰はロータスを求めるように妖しくうねり、そして蠢く。
 最早、そこには一国の王女の姿はなく、恋い焦がれる、愛する男性と睦み合う一個の女性の姿となっていた。
 そしてロータスの方も、もっと奥までエルナを貪ろうと、深く浅く抽送を繰り返す。
 時々、後ろから胸を掴み占め、揉みし抱き、そして紅玉を擦り上げ、エルナの身体を隅々まで味わい尽くすかのように、触れれば嬌声を上げる場所を徹底的に責める。
 しかし、そこには自分の欲望一辺倒ではなく、エルナを愛する気持ちでいっぱいであった。
 だから、エルナも安心して、欲望に、快感に身を任せていた……。
 グチュッ…………ズブリュ…………!!
 「はあ…………はあ…………」
 「ふあっ……あああっ!! ロ、ロータス、さ、ま…………」
 抽送を繰り返すたびに、息を荒げるロータス。
 そして、切羽詰まった声で名を呼ぶエルナ。
 二人のみに与えられる快楽に酔いしれる二人。
 そして、終わりは突然やってくる。
 二人の精神に、電撃が走り出す。
 「ロ、ロー、タ、スさ、ま、も、もう……もう……もう……あはあっ!!」
 「ぼ、ぼくも、くっ……」
 「いっしょに、いっしょ……に……きゃ、ああ、ああっ!!」
 「は、はい……エルナ……エルナ……あ、い、し、てる……」
 「わ、た、し、も……あくっ、あはあっ、あ、ああ、ああああああっ…………!!!」
 ビクッ! ビクビクッ!!
 ロータスの精が、エルナの深奥に放たれ、エルナに広がっていく。
 同時に二人の身体が痙攣し、ベッドに倒れ込む。
 荒い息の中、二人は無意識に寄り添い、そして、満ち足りた微笑みを浮かべ、眠りに落ちていった……。

 チュン、チュン、チュン、チュン……。
 柔らかな日差しが差し込み、二人の顔を照らす。
 「ん……んんっ…………」
 エルナが身じろぎし、そして、両の瞳が開く。
 そして、ロータスも殆ど同時に目が覚める。
 お互いの姿が、目に入り、昨日の姿態が思い出され、慌てて身繕いを始める。
 「エルナ様……その……あの……」
 「……びっくりしました……けど……その……」
 ロータスの言葉に、エルナが赤くなって、最後は聞き取りにくい位のか細い声で呟く。
 「……ロータス様……ですから……よかった……です……」
 「エルナ様……!!」
 聞こえた途端、エルナを抱きしめるロータス。
 それに答えるかのようにおずおずと、ではあるがロータスを抱きしめるエルナだが、ふと、何か思い当たったようになって、そして、青ざめたような表情になる。
 「? どうされました? エルナ様?」
 「書類が……今日の午前中に提出しないと」
 「う゛ぁ…………」

 その後、書類は提出されたが、妙に筆跡が曲がっていたり、書類が汚れていたのを見た者は、一様に首をひねっていたという。
 「あのお二方にしては……随分と汚いな?」
 「何かあったんだろうか……」

   FIN


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