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永遠に危険な彼女・後編

#8:いつまでも僕の危険な彼女

「うー」
リーフが、寝台のなかで、気持ちをもてあそぶように寝返りを打った。
 ぱしゃん、と、部屋についている隠し小部屋の方で水音がした。
「お願いです、お湯を使わせてください」
ナンナは、もうこれ以上はできないというほど真っ赤に緊張した顔で言った。
「何で、いつもは、別の部屋で済ませてくるのに」
「どうしても、です」
それが彼女のけじめなのだろう。仕方なく、リーフは寝室で待つことになるが、これほど時間が経つのが長いと思ったことはない。
 ただでさえ、一ヶ月待たされたのだ。仲間の少女が、思いがけず自然流産した事件があって、一時は固まっていたナンナの決心は、別の方向に固まってしまった。
「一月、私がいいというまで、待ってください。それまで、彼女と、命になれなかったあの子を、いたわってあげたいんです」
「いいよ、君がそういうなら」
そう言う思い立ちをするのがナンナなのだ。リーフに反対する理由はない。思いがけない懐妊を怖がるままの彼女にそれを求めるのは、リーフにとっても何の得もないからだ。
 そしてこの日、やっとナンナが言った。
「今日なら…いいです」

 どれだけ待たされたか、
「むー」
とうなるリーフの後ろで
「…あの」
と声がした。
「終わり…ました」
姿こそ、いつもの着慣れた夜の服だったが、湯上りの肌はいつにましてしっとりとみえて、リーフの顔も思わず緩んでしまう。
 寝台の上に上がっても、すぐには横にもなろうとしないナンナに、思わずリーフも起き上がる。
「いつもとほとんど同じことなんだから、そんな顔しなくっても」
そう言うが、ナンナはふるふる、とかぶりを振る。彼女なりの身支度か、湯に少し溶かしていたのだろう、かすかに香水の香りがした。
「違います。今までとは全然違います」
「怖いなら、止める?」
それにもナンナはぶんぶん、と首を振る。子供でも抱き寄せるように、まだほのあたたかいナンナの体をきゅ、と抱き寄せて
「決心してるんだよね。
 それなら、僕も、相応に覚悟する」

 「なんか、初めてこういうことはじめた頃と、あんまり変わらないね」
つと唇を合わせてから、リーフがそう言った。
「あんまり固くならないでよ、何だか、僕が悪いことしてるみたいに感じる」
「だって」
つとナンナが上目遣いをして
「今、リーフ様は狼ですもの」
という。
「そうだね、君は羊だ」
たべちゃうぞぉっ いいながら、ころん、と、ナンナを寝台に押し倒す。その脇に手をついて、上から
「でも僕はこれでも優しい狼なんだ。君を食べるのも優しいよ。多分ね」
そう言った。唇を合わせながら、ボタンを開けてゆく。
「いつもと同じことしてると思って、ね」
「…はい」
つん、とした胸先を口に含むと、ナンナは
「んふ」
と小さく声を上げる。もう少し深く口に入れ、きゅ、と強く吸う。
「ふぅぅ」
ナンナはふるふると震えた声を出す。
「そんな、強くしたら…」
「気持ちよくない?」
そう言うリーフに、ナンナは、
「だめなんです…今私…すごい敏感になっちゃって…」
「どして?」
素朴に尋ねられても、ナンナは答えない。しかしリーフは
「僕もただ、漫然と君とここにいたわけじゃないよ。
 『おすましの日』がちかいと、いつもよりナンナは敏感なんだよね」
「…わかってるじゃないですかぁ」
「言わないのが僕の気遣い」
ちゅ、と、わざと音を立てるように首筋に唇を当てながら、衣装をする、と滑らせる。
「肌真っ白。結構、戦ったりして傷受けたりしていたのに、ライブで全部消えるんだね」
胸のすぐ下に耳を当てる
「ナンナ、どきどきだ」
「してますよ、生きてるんですから」
という口答えを聞かない振りして、リーフはそこからつう、と舌先を脚のほうに滑らせる。片方の手はまだ、胸と遊んで、ナンナについた火をゆっくりと煽る。
「ひとつだけ、してないことがあった」
「…ふぁ?」
ナンナの下腹に頬を当てるようにして、リーフはナンナの膝裏に手を通す。
「あ」
ナンナは反射的に顔を手で覆った。
「はじめて見たわけじゃないけど…今日はなんか、違って見える」
膝を開かれて、ナンナは抵抗もできず、見られるままになっている。
「ナンナのいろんなところを好きだと言って来たけど、ここにはまだだった」
というリーフの息がさわ、と動いて、
「一番かわいいナンナ、はじめまして」
入り口に、ちゅ、と唇があてられた。
「ぁ」
「僕のを口でしてくれるんだからね、お返ししなくちゃね」
リーフの指が、そっとナンナを開く。赤くふくらみかけている彼女の分身と、花びらとがあって、その下にある奥への入り口から、つ、と滴りが落ち始めている。ちろ、とその分身を舌ではじく。
「きゃっ」
ナンナの膝がぱくっ、と閉じて、
「!!」
リーフの視界が真っ暗になる。
「な、ナンナ、脚、脚開いて、窒息する…」
「あ」
緩んだ膝をまた開いて、ナンナが後ろ手を着いて、身を少し起こしていた。
「ごめん、なさい」
「見るの? 恥ずかしいんでしょ」
リーフがそう上目遣いに言う。ナンナは一度はうなずいたが、
「でも…」
ともじもじと何か言いたそうにしている。
「ひどいことしないよ」
リーフは言って、枕に彼女の身をそっと預けた。

 ちゅ、ちゅく、と、リーフの舌と唇が、ナンナを満遍なく行き来する。湯上りのかすかな香水の香りが残っていて、もしかしたら、コレがあるかもしれないから、お湯を使うなんて言いだしたのかな。そんなことを思いながら、うるうると涙を落とすナンナの入り口をわからないように広げ、舌を差し入れた。
「あうっ」
陶然と、甘やかに喘いでいたナンナが、目を見開いて声を上げる。また脚を閉じてしまいそうになったが、今度こそ窒息してしまう。それに、差し入れられる舌は思いのほかざらざらとした感触で、入り口の快さに目覚めていたナンナは、
「あ、あは…」
と、声を上げてしまった。入り口を舌で責められ、分身を指で、つつくように撫でられ、
「あ、ひあ、ああ、あ、んくぅ…」
ナンナの頭の中は真っ白になりそうだ。リーフの舌が触れられている入り口が、それ自体が生き物のように、ぐにゅ、と動いた。
「…入り口が…開いた…」
その奥に、さらに舌を差し入れたいが、舌の長さにも限界がある。口の周りがぺっとりとしているのを、ぐいと押しぬぐって、とろりと潤みがあふれてくる中に、指を差し入れた。舌は、花びらと分身とに、丁寧に這わされてゆく。
「あ、あく、あ…ぃ」
目の焦点の定まらない表情で、ナンナが小さく何か呟くような気配を見せた。
「ぁ…あふ、ぃっ…ぃ」
「ん?」
リーフが、顔を、ナンナのそばに近づける。
「どうしたの?」
「…ぁ」
その視線に我に返ったか、ナンナは頬をそめてつい、と顔を背ける。
「嘘つけないね」
リーフは頬につい、と唇を寄せ、まだ彼女の中に入っている指をゆるゆると揺らした。
「きゅぅっ」
別の指が、分身を下から押し上げるように撫でる。
「ひぁっ…ぁ…」
ナンナは、体を震わせ、うつむくように
「ぁ…ぃ……」
と呟く。
「いいよ。我慢しないで」
「ぁ、わたし…」
「ん?」
「イク…になっちゃう…みたいです…」
「いいよ」
自分に絡み付いてくる腕に答えるように、リーフが指を使う。
「あ、あぁぁ、あぁ…わ、わたし…」
ナンナの全身に力が入った。
「い、イク…うぅぅ…ふぁぁぁぁ」

 くったりとしたナンナから指をそっと抜くと、いつもの透明な潤みとは違う、少し白みがかったものが絡んでいた。ナンナは、気絶のように前後不覚にはならなかったが、そのままでは、自分で手足を動かすこともできなさそうだ。
「少し、休む?」
さすがにかわいそうになって、リーフが傍らでそう尋ねると、ナンナは、弱弱しいが、はっきりとそれを拒否した。
「まだ、途中です」
「そうだね。でも、一度イっちゃうと、冷めるでしょ」
「…」
ナンナは、かすかに不満そうな顔をした。
「冷まさないでください」
「ん?」
ナンナが手をさしのばし、リーフの手をとった。
「私を、熱いままにしてください」

 どれだけ、からみあっていたろうか。二人とも上気して、汗を滲ませていた。リーフがため息をつく。鼓動に合わせて、下半身が脈を打つ。はちきれそうな自分のものを、戒めるように握り閉めたとき、ふと、ナンナの手も、それに触れてきた。
 上気していても、はっきりと頬が染まっているのがわかって、ナンナは微熱で潤んだような瞳で
「リーフ様…来てください…」
消え入るような声で言った。

 指とは違う。指なら何とか通り抜けられたあの入り口は、リーフには狭すぎる。
「力抜いて…」
子供にするように、額際をなでて、その入り口の手前に先を当てる。
「あ」
その感触に感じるものがあったのか、ナンナは小さな声を上げた。
「急がないよ。ここはまだ気持ちいいんだよね」
そのリーフの言葉に、ナンナがうなずく。先だけをうずめて、まわすようにする。
「あ…」
ナンナの声が艶めいた。それに安心して、少し力を入れて、その先に入る。ナンナは途端目を瞑って、
「んっ」
体に力をいれた。
「だめだよ、力抜いて」
リーフがもう一度言う。その先は固くて、果たして貫けるかどうか、リーフ本人も不安だ。びく、とその固いところが震えて、
「う」
リーフがうめいた。
「ねぇナンナ、今まで僕たちのしてきたことを信じようよ。ね。
 僕は、君が好きだから、ずっと一緒にいたいから、切れないつながりが欲しいから…」
最後の方は、ほとんど涙声だった。いや実際に、リーフは涙を落としていた。ナンナの朱のはしる胸元に、ぽつりと、その涙が落ちる。
「僕が…僕が一番ナンナのことを知ってるって…思いたいんだ」
リーフの意外な情動に、ナンナが目を開けていた。
「リーフ様、泣かないで。
 悲しいことしてるんじゃないんですもの…」
落ちてくるリーフの涙を指で払う。
「リーフ様じゃなかったら、私、さっきので蹴り飛ばしてます」
「え?」
涙で赤目になったリーフがきょとん、とした顔をする。
「女の子も、初めての覚悟を教えてもらったりするんですよ」
ナンナは目を細めた。
「私、深呼吸しますね。吐くときに力少し抜けますから、少しずつ、きて下さい」
「う、うん」

 すう、とナンナが息を吸い、少し笑んだ後、ふう、と長く息をはいた。じり、と言う音がふさわしいように、ほんのわずか、リーフの腰が沈む。
「ほ、ホントに入った…」
リーフが、信じられなさそうに声を上げる。
「でも、痛くない?」
「ちょっと…でも、ここで最初からやり直ししたら、もっと痛いから、やめちゃだめです」
ナンナがまた、息を吸い、吐く。何度か繰り返すうちに、亀頭の部分は、全部中に入ったようだ。
「熱い…」
ナンナにまわす手に、力が入っていた。密着している胸が、息を吸うとふにゅ、とつぶれ、吐くとふる、と震える。油断でもしていたのか、リーフの腰は、今の呼吸で、すとん、と落ちた。
「んくっ」
「わっ」
ナンナは、その全体がびくびくと、引きつるようだった。
「ぜ、全部入っちゃったよ」
「入りましたね」
「でも、ぎちぎちで、動けない…」
「少し、そのままでいてください…」
ナンナが、ふと目を閉じた。自身の震えが収まるのを待っているようだった。
「…お母様も」
「ん?」
「一番最初は、こんな気持ちでいたのかしら」
そう言うナンナの顔は、ほんのりと笑んでいた。
「なのかなぁ…彼は絶対、そんな話してくれないと思うし」
「ですよね」
「今度、無理やりにでも聞こうかな」
「どうぞ、お父様をうんと困らせてください」
二人は目を見交わして、くす、と笑った。やがて、ナンナはすこしとろん、とした顔で、
「リーフ様、これでナンナは全部リーフ様のものです」
といった。それから耳打つように
「動いても、いいですよ」
と。

 初めてに無理はするな。男たちのヨタ話の中で散々聞かされたことである。無理して泣かせたり、無理して怒らせたり、まあ、過ぎれば思い出話なのだろうが。
 ナンナは、ゆっくりでも、リーフの出入りに、
「…」
時々眉根を寄せて、耐えているようだった。
「痛い?」
と尋ねると、ナンナは首をふる。しかし、その眉根を寄せる顔がかわいらしくて、ぎゅ、と奥まで入れたままで、抱きしめる
「だって、初めては今日しかないから…痛くても思い出にするんです」
「ごめん、やっぱり痛いよね」
「…でも」
合わせたナンナの頬が、ほんのり熱い。
「痛い、だけじゃないんです」
「え?」
「奥のほう…」
思わず顔を見たナンナは、はにかむように
「奥のほう、少し…気持ちいいんです…」
といった。
「本当? それなら…」
下腹を密着させて、くい、と力を入れると、
「ふぁ」
ナンナの声は、確かに、痛がってるようではなかった。つつくような動きに、ナンナの顔がぽっと赤くなる。
「あ、だめです…いたずら…しないで…」
「わ」
ぎゅ。
ナンナのひきつけるような感覚が、一箇所に集中したようだ。
「今の…きいた…」
リーフが今度は唖然とする番だ。
「嬉しいっ」
と抱きついてくる。
「きゃあ」
「だって、僕のでナンナが感じたんだよ、初めてなのに、気持ちいいって、からだが言ったんだよ?」
支離滅裂な主張だ。ナンナはそう思ったが、まだ自分がその境地に至っていないのだろうと思って、黙っていた。

 「…ぅ」
そんなこんな、じゃれあっているうちに、リーフがぶる、とふるえた。
「リーフ様、寒いですか?」
と尋ねると、
「違う、僕、限界」
奥歯をかむようにリーフが言う。
「ごめんねナンナ、少しだけ、痛くするかも」
自分の手を、ナンナにしっかりと絡めて、リーフは、まだこうしてじゃれあう練習していたときのように腰を使い始める。
「あ…んっ」
当然、ナンナの奥も容赦なく小突かれる。入り口の痛みと奥の不思議な感覚の間で、ナンナの頭もかき乱される。
「ナンナ、そんなにきつくしたら…だめだよ、出ちゃう」
「きつくなんか、してないです」
「きゅうっと、するよ…あ、また…」
リーフが、がっ、と動きを止め、ナンナの肩に指を立てた。大きく息をつくリーフの下半身が、ひく、と脈打つ。
「んっ」
ナンナが眉根を寄せた、中で噴いたリーフの熱が、破瓜の傷にしみる。
「ああ…やっぱり…」
リーフが言うので、ナンナがそ、とみると、ちらりと赤いものが見えた。
「傷だけはつけたくないなあと思ってたのに、最後で失敗した」
「失敗じゃないですよ、大成功ですよ」
ナンナはぺたん、と寝台の面に座る。
「だって」
「だって、なに?」
「痛いだけじゃなかったですもの…私」
「あ、…そうだね」
ナンナは、無邪気に、リーフの首に抱きついた。
「な、なに?」
しかし、ぱ、とナンナは手を離し、
「なんでもないです」
といって、
「また、お湯使わせてくださいね」
と、寝室を飛び出した。

 と。
 小部屋にあった浴槽の中が、まったく新しい湯になっていたのに、ナンナは少し戸惑った。この部屋にも、メイドがいないわけでもない。彼女たちの配慮に違いなかった。
「あの人たち、お父様に報告したり…しないわよね」
いままでどんなことをしていても、告げ口をしなかった彼女達だから、多分このことも黙ってくれるだろう。
 その湯の中で、ちょっとだけ、そこに触れてみた。
「あっ」
まだ痛い。それどころか、まだ何か入ってる感じがする。でも、見知らぬ誰かのではないし、むしろ嬉しい。
「後は、慣れるだけね。慣れたら…」
ナンナは、少女たちの話を思い出していた。飛ぶような、とか、浮くような、とか、落ちるような、とか。
「あーん、初めてなのに、もう次のこと期待してるぅ…
 ナンナ、いけない子になりそう…
 でも、明日…まだこなかったら、おねだりしちゃおうかな…」

 一方リーフは、もちろん、下心の完遂に嬉しくないわけは当然なかったが…
「明日からナンナは全部僕のもの…」
と顔が自然にふにゃらけてしまう一方で、
「明日から顔があわせにくいなぁ」
と思っていた。ナンナにはではない。フィンにである。
「ナンナを一番知ってるのが僕になったのは嬉しいけど…
 アイツ、カンがいいから、絶対わかっちゃうと思うんだよな…」
どこまで存ぜぬフリができるか。リーフに課せられた課題は、存外に大きい気がした。
「いや、まてよ」
逆に開き直るのはどうだ。ナンナと話してたアレを、わざとふってみて、フィンがどんな顔をするのか、見てみるのも面白いかもしれない。

(危険な彼女シリーズここに完結。)

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