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永遠に危険な彼女・前編

#6:チョイ狼親父の野望

 自分がそれに拍車をかけていることなどひとまずタナに上げて、
「叔父貴の『つもり』がわからない」
とアレスが言う。
「何故です?」
「狼だ羊だ食べるだ食べられるだ、そういう会話が子供たちの間で平然と交わされてるのに、なんであんたはリーフにあんなこと許したんだ?」
「私はリーフ様に許したのではありません、ナンナに許したのですよ」
フィンの返答は判じ物のようだ。
「一緒だろうがよ、結局毎晩ひとつ部屋で、中でどういうことになってるか、考えたことないのか?」
暗に何かが起こっている、そんな雰囲気をにおわせながらアレスが追い打つように言っても、
「ありますよ」
やっぱり、返答は穏やかだがそれ以上何もいえなくなる。
「…あんたと話してると怒る気も失せるな」
アレスはひとつ盛大なため息をついた。それを見て、フィンは
「ありがとうございます」
と言う。
「ナンナにもそろそろ、私に教えたくない秘密を持つよう教えなければなりませんからね。
 彼女は私をまったく安心して、これまですべてを打ち明けてくれました。
 しかし、もうそんな年でもないでしょう」
「まあな、世間一般の女の子なら、たとえばフィーみたいに、レヴィンとは寄らば斬るような間柄になったりもするらしいが、ナンナは見たところそんな様子もないしな」
「なればこそ、秘密を持つことを教えるのは、私ではいけません。それではこれまでと同じです」
「なるほど。あんたがそこまで考えているなら、俺も好きにさせてもらうが」
アレスはふぅん、と一度おとなしそうにうなずいた上で、
「たとえば、リーフに悪知恵吹き込んでもお構いナシか?」
フィンの耳元でいかにもやるぞと言うような顔で言う。
「もうあれこれお話されてるのでしょう、いまさら私に確認は必要ありません」
しかしフィンの返答はあっさりしたもので、アレスはこれ以上は、何をしてもこの人物をうろたえさすようなことはできないと思った。
「一体どこまでお見通しなんだあんたは」
「何年、あの二人と一緒とお思いですか。なまなかの秘密では、私に隠しおおせることはできませんよ」
「とんだ羊親父だ」
「とんでもない、人から聞きましたがアレス様がおっしゃったのでしょう、私も昔は狼だったと」
「な、なぜそれを」
「羊の味は知りませんが、私は小鹿の味については誰よりもよく知っていると自負してますよ。
 私では教えられないことをかわりにご心配くださって、ありがとうございます」
アレスは、一間置いて、にんまりとした、
「それじゃあとで、ゆっくり聞かせてもらうかな、その小鹿の味の話を」
「それはできません」
「どうして」
「永遠の黙秘事項ですから」

#7:月がとっても青いから

 綺麗な月夜だった。
 バルコニーに、二人で掛け布団ひとつに包まって、この月光を見ていたリーフが、
「何か、考え事でもしてる?」
とナンナに尋ねてきた。
「どうしてです?」
「そんな顔してるから」
「…」
ナンナは、リーフの膝の上で、ためらいがちに身じろいで
「いつまで、秘密が秘密のままでいられるのかしら…って」
「いつかはばれるのが秘密なんだよ」
リーフの答えは、むしろ秘密がばれて欲しそうな感じがした。
「こんなにかわいいナンナがそばにいて、僕は幸せだ」
ついつい、と、唇が首筋にふれるのを、ナンナは身をひねらせて避けようとする。
「リーフ様、寒いから…中にもどりましょ」
「そう? 寒い?
 …まあいいか、中に入ろう」

 中で、ぱふぱふ、と、掛け布団のほこりを払っていると、後ろからリーフの腕がするっと伸びてくる。
「!」
「元気なさそうで、少し心配していたけど」
「そうですか?」
「うん…突然、変なこと話し出したりして」
というのは、外に出て、月を見る前の、ささやかな会話のことをさしているのだろう。

 こんな具合であった。
「リーフ様」
「何?」
「私、時々、『おすましの日』があって、その間は何もできませんけど、おつらくないですか?」
おすましの日、というのは、遠巻きに月の障りをさす。最初はナンナだけ使っていた言葉は、今は解放軍の少女たちの大部分が使っているようで、何気なく使う分には、悟られて、男たちのからかいのネタになりにくいぶんだけ、彼女らも安心しているようだ。
「別に、辛くないよ」
とリーフが返す。
「この部屋に一人でいる間は、確かに、我慢できないこともあったけど、不思議だねぇ、今は君がここにいるだけで満足なときがある」
「有難うございます」
「まあ、そう言う僕も、どこまで君たち女の子の体のことを知っているのと聞かれても、困るけどね。
 とにかく、君たちにはそういうことがあって、これから先、子供を作ることに、必要なことらしい、ぐらいはわかる」
「リーフ様…」
ナンナの顔が、ふとこわばる。そう言う顔をしたときは、彼女が何かしら考えている証拠だ。
「あの」
決心したのか、切り出そうとするナンナの口を、リーフは指でふさぐ。
「僕は誓ってるんだよ。そりゃ確かに、僕たちは…まあ、我慢し切れなくてハメをはずすこともあるけど、最後の一線だけは、僕の面子にかけても、誓って守る」
「でも」
「ここで誓いを破るのは簡単だよ。でも、それで悲しい思いをするかもしれないナンナを見るほうが辛い」
リーフは言って、ほらほらと、掛け布団の片側を少し開くようにして、ナンナをそこに招き入れる。
「これだけでもどきどきして眠れなかったのも、もう笑い話だね」
「…はい」
そこから始まって、あれだこれだとお互いの体を調べるように触れ合ってきた。その時も、リーフの手は、ナンナに絡めた手を、本当は何かしたそうにするすると滑らせていた。

 とまれリーフは、ナンナを後ろから抱きしめたままで、
「やっぱり、我慢できない」
「そう呟いた」
「え?」
「元気なさそうだから、何もしないでいようと、今夜は思ったけど…
 月の光は人を惑わせるって、こういうことを言うのかな」
そう呟く声が、ナンナのうなじの辺りに聞こえ、そのまま、唇が吸い付いてくる。
「あ、だめですよ、こんなところじゃ」
廊下への入り口が近い部屋なのだ。ここで取り乱すようなことをさせられたら、声が部屋の外まで漏れてしまう。
「寝台のほうまで行かないと、いやです」
「慎重なんだな、このプリンセスは」
リーフは少しつまらなそうな声で、掛け布団を抱えたナンナを押すように寝室のほうに入り、かち、と内側から鍵をかけてしまった。いつもは鍵なんてかけないのに。鍵のかかる音が、ナンナの胸をどきりと鳴らす。
「気にしないで。邪魔されたくないのと、いつもより君に乱れて欲しいだけだから」
耳打ちされて、ナンナが薄明かりの中真っ赤になる。抱えられた掛け布団の下にする、とリーフの手が入って、脚の間の淡い茂みの辺りをする、とさすった。
「!」
ナンナばぴく、と震えて、思わず掛け布団を取り落とす。ナンナの夜の服は、前一列がボタンになっていて、必要な場所を開けて手を滑りいれると、すぐ素肌に触れることができた。
それを知っているリーフは先ほどさすったあたりのボタンをぷつ、とはずして、じかにさわってくる。
「ぁ」
ナンナはふらりと脚の力をなくして、リーフに寄りかかるようになってしまう。
「おっと」
そのまま、寝台にぽん、と座るような形になる。
「いきなり、だめです…そんなところ…」
指を入れられそうになる。でも、突然のことで、ナンナの体はまだ乾いているままだ。
「じゃ、泣かせる」
リーフは背中に頬を当て、そう言った。
 ぷつ、ぷつ、と、上から丁寧にボタンをはずして、衣装の滑り落ちるままに出てきたナンナの乳房を、後ろから覆うように手におさめる。
「ふぁ」
「僕が前に言った言葉、当たったね」
「な、なに…ですか?」
「ナンナの胸はすごく綺麗になるって。
 今はもう、指が埋まるほど柔らかくて…敏感で」
ぷるぷる、と震わされるようにされ、その先を軽くひねられて、ナンナはぴく、と体を震わせた。
「でも先端が一番なのは変わらなくて」
「い、言わないでください…恥ずかしいから…」
「恥ずかしくさせたいから鍵かけたんだよ」
リーフはしれっとした声で言って、
「ナンナの背中は初めてだな」
といいながら、その背中にちゅ、と音を立てて唇を当てた。
 途端。
「ひぁぁ」
ナンナが、まるで敏感な場所をじかに触れられたような声を上げた。背筋に沿って舌を這わせたり、肩甲骨の形に合わせて唇を触れたり、多少物慣れでもしていない限り、くすぐったがることはあっても、声を上げるような場所ではないと、リーフは高をくくっていたのに、彼女はその背中に、予想以上の反応をした。
 ぴた、と手を当てるだけでも、ナンナは
「ん」
と支える手に添えた手に力が入る。
「ナンナ…背中、いいの?」
「わかんないです、でも、声…出ちゃって…」
そういえば、と、リーフは、一昔前を思い出す。じゃれあっているつもりで、ナンナが余りにくすぐったがるのが面白くて、背中をわしゃわしゃとしていたのを、普段なら暖かく見守っているはずのフィンがまるでしかりつけるような顔でとめたのを思い出した。
 それと、聞き流していたはずの悪友の言葉。
「印の出てるあたりなんか、触ったらもうどうにでもして状態だよな」
それがリーフの頭の中でかちん、と符合した。つ、と手を伸ばして、ナンナの背中にある、ヘズルの淡い印をつい、と撫でる。
「あふぅっ」
「やっぱり…」
つまりこの娘の父親は、将来こうなることを見越していたというわけで、それは、とりもなおさず、『ナンナが濃く血を継いでいるかのプリンセスも、同じ』、というわけだ。リーフはにや、という形容がふさわしい顔をした。しかし、コレを話のタネにするというのは、すなわちナンナもそうだということを知ったと言うことを報告するようなもので…
「血を見そうだな」
リーフはそう呟いて、手が触れているだけで呼吸が揺れるナンナの、胸に手を回しなおし、柔らかくもみこみながら、背中の印に唇を当てた。
「ああっ」
ナンナはそれでも背中をそらそうとする。ずる、ずる、と、リーフは脚だけで移動し、枕に自分の背中を預けた。コレなら、自分の上で多少ナンナが暴れようが、支えていれば転ぶことはない。

 勢い、脚を投げ出した上に、ナンナは膝から下を広げるように座る形になっていたが、ナンナの腰がつ、と横に揺れた。腿に、ふわ、と茂みの当たる感触がしたが、同時に、ぴた、と熱い水分の感触もした。ほとんど触れていないのに、ナンナの体が切なげに涙を流している。その顔も、からだも、いつも見ているより上気して、目じりから涙を落とす表情は…彼女も、さっきの月の光に惑わされたかと思えるほどだ。

 そのナンナが、背中から振り返るように、リーフを見た。
「何?」
と尋ねるが、ナンナは何も言わずうつむいてしまう。が、

する。

リーフの腿の上で、ナンナの腰が動いた。
「ぁ」
と押さえがちに声を出す体を、後ろから抱きしめると、彼女の全身が火照っている。もちろん、リーフも、自分の上にある声と肢体に、これほどになくあおられて、そりあがり、脈打って、先から透明な汁が滲んでいる。
「もういいよ、ナンナ」
後ろから、そうリーフが言った。
「あの練習、しよう」

 振り返らせ、脚の上に乗せると、ナンナは少し不安そうな顔をした。
「あの練習…って、いつもみたいにしないのですか?」
「君の練習だから」
リーフは、なるべく怖がらせないように、遊ぶような笑顔で言って、ナンナを引き寄せて、深く唇を合わせた。
 最初はこれから始まったのだ。ぷちゅ、ちゅ、と、舌を絡ませながら、下にす、と手を伸ばす。滴るようになっていて、薄い茂みは、その潤みを吸って、指で撫で付けられるほどだ。
「ん」
触れられているのがわかったのか、ナンナの指に力が入る。つ、と指を奥に入れられて、
「ん、ふ」
鼻で喘ぐ。ここまで敏感で指に喘ぐナンナが、まだ本当に知るべきものは知らないと、誰が信じようか、リーフ以外には。
 ぴったりと、上半身を密着させて、切なそうに息をするナンナに、リーフがささやく。
「君のかわいい花びらで、奴を包んであげて」
「…はい」
温かい、うるうるとした花びらが、リーフのものをそっとはさむ。反り具合にぴったりとして、リーフの体のほうが震えてくる。
「…どうすれば、いいのですか」
「そうか、さっきのは無意識だったんだね」
「え?」
「なんでもない。
 手でするように、腰を滑らせてみて」
「は、はい」
えと…考えるような顔で、ナンナの腰が控えめに動く。しかし、すぐに双方の分身がふれあって、
「あ」
ナンナはぺたりとリーフに取りすがってしまう。リーフはその腰に手を回して
「上手だよ」
と、困らせるようなほめ方をした。
「僕も気持ちいいから…続けて」
リーフに腰を支えられながら、ナンナが動く。くちゅ、くちゅと音がして、ナンナの潤みが自
分に沿って伝い落ちてゆくのを何とはなしに感じながら、
「またシーツ換えないとだめだなぁ」
リーフは苦笑いをした。腰を抱え手いる手を片方はずして、胸の先をもてあそんでみたり、顔を上げさせて唇を触れ合わせたり、やはり、何も知らないものが見れば、リーフの上で、ナンナが腰をくねらせ、とり乱しているようにしか見えないだろう。
「あ、は、はふ、」
ナンナが声を上げる。要領を掴んだのか、自分の好みの場所をこすりつけてくる。
「ふう、ふ…ふはっ」
「良く見えるね」
とリーフが言った。
「僕のいかついのと、ナンナのかわいいのが、僕たちより先に仲良くなってて」
「言わないでください、恥ずかしいから…」
ナンナが顔をみられたくないように、リーフの首にすがりついた。
「でも本当だもん」
「リーフ様意地悪です」
「君のかわいい顔見られるなら、僕は意地悪になるよ」
そのナンナの顔をあえてみて、
「少しずらしたら、僕たちは完全にひとつになる。やっちゃうかもしれないよ」
「だめです、だめですったらぁ」
リーフの胸の上で駄々をこねるようなナンナの尻をつと捉え、ゆさ、とゆする。
「はひっ」
「ナンナ、動いて。かわいいナンナももうぷくぷくでかちかちだよ」
また、くちゅ、くち、とナンナの腰の動きが始まって、ナンナの足がぶるっ、と震えた。
「ふは、あ、あ、あの、変な気持ちが…」
「変な気持ちじゃないよ。イクんだよ」
「これが、イク、なんですか?」
「そう。もすこし、がんばって」
額にちゅ、と口付けられて、ナンナは一気に押し上げられる。きしきしっと寝台がきしんで、ナンナが腰を押し付けてくる。
「イって。全部見てあげるから」
リーフも少し眉を寄せた。密着して、リーフへの刺激もつよくなったからだ。
「ふぁ、は…ぅ、くはっ、は…ぁ、ぁ、ぁ」
「!」
その瞬間、ナンナの花びらがふるふる、と震えて、密着した下腹に、リーフが熱いものを噴いた。

 息を整えながら、リーフが
「…はは」
と短く笑った。ナンナは、陶然とした目をうっすら開けて、
「何ですか?」
と尋ねる。
「いまの、最後までしてたら、最高の瞬間味わえたかも」
「ぁ」
ナンナの顔が真っ赤になる。胸板に伏せてしまった頭をなでながら、
「気にしない気にしない。今日は、君が一所懸命なのが特別に良くわかった」
「知りません知りません。こんな恥ずかしいこと」
ナンナはどうも、事後が恥ずかしいタチらしい。リーフは始末もそこそこに、ナンナをのせたまま、
「でも、もう、練習っぽいことは、ほとんど終わっちゃったねぇ…」
と言った。ナンナがは、と顔を上げる。それを見て、リーフは、彼女の頭によぎった心配を悟ったのか
「でもまだ、練習どまりでもいいんじゃない? 僕はそれで十分満足」
と、また頭を撫でた。

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